昨日、宵のつれづれに、本棚からふと、橋本治の『これで古典がよくわかる』を取り出して読み始めたら、面白くて止まらなくなった。
そして、今日の朝刊で彼の死を知る。突然の訃報で驚いた。昨年6月に癌が見つかり、療養中だったという。
私が橋本氏を知ったのは学生の頃。氏が書いた少女マンガの評論を読んだのが最初だった。それは萩尾望都を論じたもので、それがきっかけで私はしばらく『ポーの一族』や『トーマの心臓』などに耽溺したものだ。氏のマンガ評論は『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ』という本にまとめられ、この本も私はもちろん買って読んだ。
それからはなはだ不純な動機だが、ロマンポルノで映画になった『桃尻娘』の原作が氏の小説だということを知り、それも読む。それは映画とは似ても似つかぬものだったが、女子高生の一人語りによる、とんがった物語は確かに魅力的だった。私は『帰って来た桃尻娘』まで買って読んだと思う。
ただ、私としては小説より、評論やエッセイの方をよく読んだ。氏の守備範囲はおそろしいほど広く、自分だけでは見えないものを見せてくれるような感じがした。私は『ひらがな日本美術史』で運慶のすごさを知ることができたし、『三島由紀夫とはなにものだったか』で、それまで敬遠してきた三島を読む気になった。新聞などに載る氏の時評に蒙を啓かれたことも多い。私にとって氏は、ちょっと大げさかもしれないが、「知の巨人」と言うべき存在だったのだ。
氏は「〝わからない〟を認めない限り、〝わかる〟は訪れない」(『これで古典がよくわかる』より)という。氏は「わかるものを書く」というより「わからないものについて書きながら考える」という人である。だから、文章は平易だが時に内容は難解になる。着地点がどこか、たどることができないことに耐えられず、最後まで読めなかった本も実はけっこうある。(これを機に、物置から持って来てそんな本を読み返してみたいと思う。)
橋本治氏、享年70歳。内田樹氏はネットにアップされた追悼文の中で「橋本さんの通った後なら大丈夫。あそこまでは行っても平気というのは後続するものにとってはほんとうに勇気づけられることだった。」と書いているが、本当に偉大な先達だったと思う。私にとっては遥か先にだが、灯をともしてくれる人がいなくなったことは、とても寂しい。
橋本治氏のご冥福を祈る。
新聞によると、喪主はご母堂とのこと。それも切ない。
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