2021年1月25日月曜日

CD「特選落語会」

図書館で借りてきた落語のCDは、2014124日、25日に深川江戸資料館小劇場で行われた「第50回特選落語会」で収録されたものである。

Disc

トップバッターは古今亭菊之丞の「親子酒」。マクラの師圓菊の物真似が上手い。落語が上手い人は物真似も上手いんだ。自身も酒飲みで、実に楽しそうに酒を飲む場面を演じている。プロの余裕だな。ぼそっと呟く「宮治の落語はうるさいね」というのが、黒門町の「馬の巣」の「電車混むね」を思わせて面白い。菊之丞の文楽リスペクトを感じる。

お次は桂文治「平林」。マクラは先代文治の思い出。小文治さんも登場した。うれしい。語り口は至って賑やか。後でさん喬が「落語協会にはいないタイプの噺家さん」と言っていたが、納得。小僧が「たいらばやし」が覚えられないくせに「たいらばやし」「ひらりん」「いちはちじゅうのもくもく」「ひとつとやっつととっきっき」の4つは覚えられるのが不自然だと思っていたら、文治自身もそこに突っ込んでいた。サゲも一工夫してあっていい。ちゃんと噺を自分で作っている。

Disc1のシメは柳家喬太郎の「仏馬」。珍品だが、喬太郎はよくこういう古い噺を掘り出してくる。『落語事典』で調べたら二代目談洲楼燕枝が演じていたとのこと。彼は初代燕枝の「擬宝珠」も持ちネタにしている。燕枝は三代目が零落して死に、継ぐ者がいなくなったが、明治期では三遊亭圓朝と並称されたほどの大名跡だ。喬太郎に蘇らせてほしい気もする。(喬太郎という名前も彼の芸のサイズには合わなくなってきていると思うのだが)

「仏馬」自体は、坊さんが純朴なお百姓をだますという噺。私としてはあまり好きな噺ではない。それでもこれをからっと爆笑させる喬太郎は流石だ。ちなみにこれだけが同年4月の「第52回特選落語会」からの音源。噺の後に中入りの太鼓が鳴る。文字通り、ここで仲入り。

Disc 2は柳家権太楼と柳家さん喬の共演。権太楼は24日の、さん喬は25日のトリだった。構成上、中入り後にトリネタが二つ並ぶのは上野鈴本演芸場で二人がやっていた「鈴本夏まつり」を思わせる。

権太楼は「井戸の茶碗」。正直者同士が絡み合う人情喜劇は、男っぽい権太楼の語り口によく合う。武士二人の間で右往左往する紙くず屋の好人物っぷりが楽しい。悪い人間は一人も出て来ない、爽快な一席に仕立ててくれた。

さん喬は「雪の瀬川」。『落語事典』にある「雪の瀬川」は「夢の瀬川」ともいい、「夢の酒」の原話になった噺。さん喬のはそれとはまったく別もので、六代目三遊亭圓生が演じた「松葉屋瀬川」の後半部分である。(さん喬は「派手彦」もやっているし圓生ネタと相性がいい)

古河の下総屋の若旦那善治郎と吉原松葉屋の花魁瀬川の純愛物語。勘当になって、かつての奉公人忠吉の長屋に身を寄せている善治郎のもとへ、命を懸けて足抜けをしてくる瀬川。しんしんと江戸の街に降り積もる雪の情景と共に、さん喬はしっとりと物語を紡いでゆく。瀬川が苦界に身を沈めている者ゆえに、その思いが胸に迫る。さん喬の描写は絵画的だな。はっきりとその場面が目に浮かぶ。その後大旦那に許されて、二人は結ばれる。「昔々のお話でございます」と余韻を残す幕切れ。ドラマとしては甘い。リアリズムでいけば心中だろうが、ハッピーエンドになることで「いい噺が聴けたなあ」という満足感でいっぱいになる。いい噺を聴かせてもらった。

 

CDの造り自体がよくできた落語会の構成だ。演者もお互いにマクラや噺の中でいじったりして和気藹々とした雰囲気ながらも、互いに触発されている感じがいい。間に色物が入れば、まさに寄席の高座だな。

寄席に行きたくなったよ。私にとっての落語は不要不急じゃないんだけどなあ。 

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