落語には、飲み食いする場面が印象的な演目がいくつかある。
優れた演者が演じると、本当に旨そうで旨そうでたまらない。
その中でも、冬の『二番煎じ』、夏の『青菜』は双璧でしょうな。
今回は、時節柄『青菜』についてお話したい。
お屋敷の仕事をしている植木屋さん、旦那に誘われて縁先で酒をご馳走になる。
酒は上方の友人から送ってもらった「柳蔭」。東京ではこれを「なおし(本直し)」という。焼酎と味醂を割ったもの。それがガラスのコップに注いである。私は飲んだことはないが、いかにも涼しげだ。プールサイドで飲むカクテルのようではないか。
つまみは、鯉の洗い。最近、鯉はあまり流通していないが、その昔、江戸ではグレードの高い魚として重用された。落語でも『狸鯉』で登場するし、黒門町の文楽が演っていた泥棒の小咄では、小料理屋に入った強盗が、鯉の洗い、鯉こくをたらふく食べ、百両の金を請求される。
うちは霞ケ浦が近いので、鯉はご馳走だ。私は、味噌で煮込む鯉こくより、甘辛い醤油味のうま煮が好き。真子(卵巣)が入ったのが、また旨いんだよな。
鯉の洗いは好きだねえ。なんせ小骨を気にせずぺろっといける。さっぱりしてて、きんと冷やした吟醸酒にぴったり。私はちょっと辛子を利かせた酢味噌につけて食べる。
旦那は下に氷を敷かせた。いい工夫だ。確かに氷は解けるが、解ける前にささっと食べられるだけの量が粋なんだと思う。
こういうのを植木屋さんがいちいち感動して飲み食いする。それをうれしそうに見る旦那。いいなあ、ここが『青菜』のハイライトシーン。笑いは少ないが、ここでお客を引き付けておくと後半のドタバタが生きる。
うだるような暑さの中での一服の涼、夏の風情を味わうにはうってつけの噺だな。
六代目春風亭柳橋や五代目柳家小さんなどが得意にした。柳橋先生の大らかさ、小さんの恬淡な味、どちらも捨てがたい。
個人的には七代目柳橋の『青菜』が思い出深い。柏枝から柳橋先生の後を継いだ人。元は三代目桂三木助の弟子だった。柳橋の謡い調子、三木助の洒脱が匂い立つ高座だった。若い頃は美男子として人気者だったという。2004年、69歳で死去。この人を寄席で見ておいて、本当によかったと思う。
『青菜』に出て来る「柳蔭」は焼酎を味醂で割った
返信削除ものと云うのは、現在ではチューハイに相当するようなものだと考えても良いのでしょうか?
これが、終戦後東京などの大衆酒場でサイダー等炭酸で割り、果物の果汁を加えるチューハイに発展するのでしょうか?
私関西在住で毎年ゴールデンウイークに(今年(2021年)昨年(2020年)はコロナウイルスで中止に成りましたが)大阪のイベントの一環でテントで小屋を造り、素人が落語や演芸を行うイベントの手伝いをさせて貰っております。そこでビールやチューハイを販売もしているのですが、昔(40年位前に)「柳蔭」を造り販売したと云われました。打ち上げで残りに柳蔭を呑むと、口当たりは良いので、酔いは速かったと当時の参加者の方は語られて居られました。
呑み易いが、酔うのも速いという感じのものなのでしょうか?
お屋敷の旦那が飲むんだから、チューハイのような大衆的な感じとは違うんじゃないでしょうか。ちょっと高級なカクテルというイメージでしょう。(炭酸入っていないし)
返信削除ネットで調べたのですが、味醂のアルコール分は焼酎だそうです。味醂は甘みがあって、飲み口のいいアルコール飲料。『真景累ヶ淵・お関殺し』で深見新五郎(新吉の兄)が味醂を飲んで酔っ払い、お関(豊志賀の妹)を口説く場面があります。下戸の新五郎が得意先の番頭に勧められて「つい口当たりがいいから飲み過ぎて」と言っています。
柳蔭はその味醂に焼酎を足してアルコール濃度を上げたもので、味醂よりもさっぱりして、口当たりはいいが酔いの回りは早いでしょうね。
「柳蔭」「本直し」で市販されているようですし、飲用味醂を買って来て焼酎を足して飲むのもいいでしょう。是非、お試しください。(私は飲んだことないのですが・・・)