2019年10月1日火曜日

ジョン・アップダイク『帰ってきたウサギ』


かつて「ウサギ」と呼ばれ、バスケットボールの花形選手だった、ハリー・アングストロームの物語、『走れウサギ』の続編。
『走れウサギ』を初めて読んだ頃、私はアメリカ文学にちょっとばかり凝っていた。昭和の最後の頃だ。フォークナー、ヘミングウェイ、フィッツジェラルド、カポーティ、サリンジャー、カーヴァー、キンセラ、アーヴィングなどを立て続けに読んだ。アメリカは過剰で、誰もが何かしらの依存症を抱えているように思えた。

さて、ウサギは36歳で、車のリアウィンドウにアメリカ国旗のステッカーを貼り、黒人と移民を敵視するような男になった。
父親は同じ印刷工場に勤め、母親はパーキンソン病に苦しみ、息子ネルソンは思春期を迎え、妻ジャニスとはぎくしゃくしている。前作『走れウサギ』で赤ん坊を死なせたことが、ウサギの家族に暗い影を落としている。
やがてジャニスは家を出て、不倫相手のもとに走る。ウサギはひょんなことから金持ちの家出娘、ジルを家に引き取る。さらに、黒人スキーターが転がり込んできて、奇妙な共同生活が始まる。

時は1969年。アポロ11号の月面着陸、泥沼化するベトナム戦争、フラワーチルドレン、セックス、ドラッグ、果てしない混沌、アメリカは病んでいた。
1969年といえば、村上春樹の『ノルウェイの森』の年でもあり、ビートルズの解散が決定的になった年でもある。アメリカでウサギの身辺がぐちゃぐちゃだった頃、日本ではワタナベと直子と緑が、イギリスではジョンとポールとジョージとリンゴが、ぐちゃぐちゃを繰り広げていたわけだ。

それから50年後が今年か。
アメリカは、たちの悪い冗談としか思えない大統領を戴いている。また、そいつに我が国のトップはちぎれるくらい尻尾を振っているんだな。その周りを、ちぎれるくらい尻尾を振っている官僚や議員、マスコミなんかが取り囲む。そうしなければ、皆、取り立ててもらえない。そして、それに盲従する同朋は、自由や権利や誇りを嬉々として差し出している。批判は封殺され、鬱憤は隣国へと誘導される。理想には唾が吐き掛けられ、あけすけな本音が撒き散らされる。世界は病んでいる。・・・なんか今日は俺、荒れてるな。

話がそれた。
ぐちゃぐちゃに巻き込まれながらも、ウサギは根っこのとこで誠実だ。とてもまともとはいえないが、悪い奴ではない。
結局、ウサギは家も仕事もジルも失うが、ジャニスが戻ってくる。ただ、これから先どうなるかは分からない。まだまだウサギは転がり続けるんだろう。
そして私は、まだしばらく、ウサギの物語を読んでいくんだろうな。

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