インフルエンザ外出禁止、4日目に入る。
熱を出していた頃は、さすがに何も出来なかったが、ようやく昨日あたりから、本を読んだり、DVD観たり、CD聴いたり、といったもので時間をつぶしている。
本も新しいのを買いに行けないので、昔買ったやつを引っ張り出して来て読んでいる。
今日はその本のことを書いてみる。
まずは山口瞳『旦那の意見』。
山藤章二画伯のカバーが美しい。
山口瞳のエッセー集。私にとっては『酒飲みの自己弁護』以来、山口瞳は偉大なる先達であり、「おとな」を感じさせる人だが、その山口が自ら仰ぎ見る存在の人々を語る。
何といっても表題作「旦那の意見」が絶品。古今亭志ん生晩年の姿を、志ん生の落語『淀五郎』をベースに描く。
淀五郎の演技に対する、市川団蔵・中村仲蔵という二人の名人の意見の対照、とりわけ仲蔵の意見の分析などはうならされる。解説は山口の息子が書いているのだが、息子の方は志ん生演じる団蔵に六代目圓生の姿を見、山口は仲蔵に六代目菊五郎の面影を感じる。この辺の機微も面白い。
また「大津絵」を思うように歌えず、身もだえするが如き晩年の志ん生、その最後の最後まで芸に執着する姿が、いかにも志ん生らしくて胸に迫る。
さらに川端康成が題材の「孤独な現実主義者」「創意の人」は、まさに圧巻である。
実は私と、以前同じ職場だったHさんとの間で、一時密かな「川端康成ブーム」があった。川端の「ノーベル賞作家」「美しき日本」といった一般的イメージにはそぐわない「妖しさ」に、私たちはやられたのだ。そして、『みずうみ』とか『千羽鶴』とか『浅草紅団』なんてのを夢中で読みふけったものだ。その川端の「妖しさ」を、山口は存分に語ってくれる。一筋縄ではいかない複雑な魅力を持つ川端康成を、かつての隣人山口瞳が描く。ぜひ一読願いたい。
次に太田和彦『居酒屋大全』。
私は、最初この本を30前に読んだ。
1990年に単行本で出て、この文庫本版は1998年に加筆訂正して出されたものだ。
この本のおかげで、その後の私の酒飲み人生は如何に豊かなものになったか。私にとってはバイブルともいうべき一冊であります。
インフル中は酒も飲めないので、しかたなく活字でトリップ。いやあ今読んでも新鮮ですなあ。
最後は『魯山人の世界』。
活字ばかりじゃ疲れるので、合間にうっとりと眺めております。
魯山人の器にはいい意味での俗味がある。普段に使ってみたいという親しみがあるんだな。
魯山人自身、器を作り始めたのは、美食のためというはっきりした動機があったのだから、自ずからそういうものになるんだろうけど。
もちろん私どもに本物は買えませんや。「魯山人展」に行っても、ケース越しにしか見られない。
その点、この本には、ちゃんと料理を入れた魯山人の器の写真がふんだんにあるのだ。いいねえ。
ここんとこ酒の飲めない私は、やはりこの本を見てトリップしておるのです。