ゼミのコンパでは、まず先生に楽しんでもらうことを考えた。
何しろ、文学部の学生である。世間一般の人より浮世離れしている奴が多かった。勝手に飲ませておくと、何だか訳の分からん飲み会になっていってしまう。(それはそれで面白かったりするわけだが。)
畑先生自身、ご自分が面白くない飲み会だと、すねて、シメの歌を歌ってくれないこともあった。
そこで、副ゼミ長の岐阜改め高山T君(T君からの強い要望による)と、落研部員の私の出番だ。まず、先生お気に入りのガラモンSさんを隣に配置し、T君と私が対面に座る。私は落研でこそ根暗で通っていたが、人間関係というものはあくまで相対的なものだ、文学部では「陽気な冗談ばかり言っている男」(小説『山の上大学文学部国文学科ゼミ対抗ソフトボール大会』より)となるのである。相方のT君とは、会話の呼吸が合った。ゼミ長のS君によると、私たち二人の会話は漫才のようであったという。そうして、二人で、S君やら後輩やらを軽くいじりながら、場を盛り上げた。
前にも書いたが、学会のお手伝いをした後はよかったね。先生が「寿司を食べよう」と言うと、すかさずT君が「『小僧の神様』ですね」と切り返す。寿司屋の後のスナックでは、先生がボトルキープしていたサントリーホワイトを振る舞ってくれたが、ガラモンSさんは先生の隣で、手慣れた様子で水割りを作っていたっけ。
私の落研最後の対外発表会には、先生も観に来てくださった。
この時私は『芝浜』を演ったのだが、先生は「よかったよ」と誉めてくださった。「あのお飾りの笹の葉が揺れる音を、亭主が雪が降っている音に聞く場面が、なかなかいいね」
受付には、洒落だったのだろう、当時でも珍しい合成酒を置いて行かれた。合成酒を飲んだのは、あの時が最初で最後だが、あの味はちょっと忘れられない。
卒業間際になって、先生から「落研の顧問を辞めるよ」と言ってきた。詳しくは覚えていないが、新幹部がしくじったらしい。いくら謝っても駄目だった。
教師であれば、間違いを教え、諭し、次は同じ間違いをさせないようにする、というプロセスを踏むべきだろうけど、先生の場合は許せないんだな。それがいかにも先生らしい。
高山T君が「先生はろくでもない大学生と、ずっと同じ土俵に上がり続けたんだな」と言ったけど、畑先生を語るには、けだし名言だと思う。
そして、しくじっても破門されても、私たちはそんな先生が大好きだったのだ。
畑有三先生のご冥福をお祈り申し上げます。
追記。
畑先生のシメの歌は『古い顔』だと、高山T君が教えてくれた。T君曰く、「ダークダックスも歌っている名曲。『美人だったあの人も/今では会えぬ人の妻』という哀愁の名フレーズ。ぜひ読者に紹介してほしい」とのことでした。
4年の軽井沢合宿。30年以上も前のものです。