NHK新人落語コンクールは、春風亭一花が『厩火事』で優勝したという。
私はその番組を見ていなかったけれど、この間、楽屋で話題になったのである。梅八さんに色々内幕を教えていただいた。その時、思ったことを忘れないうちに書いておきたい。
一花は、女性として、『厩火事』のサゲを、どうしても受け入れられなかったらしい。予選ではサゲを変えて演じたが、決勝では従来通りのサゲにした。誰もが、『厩火事』のサゲは、「お前にケガでもされてみねえ、明日から遊んで酒が飲めねえ」が最良だと言ったというし、私もそう思う。
いったい、『厩火事』は、確かに女性が大役を演じてはいるが、噺の構造そのものが男目線でできており、男にとって都合のいいように展開している。色川武大の言うように、「落語は男の呟き」なんだろう。
女性の演じ手が、よく『厩火事』を高座にかけるが、どうなんだろう、と私はずっと思ってきた。女性が懸命に演じれば演じるほど、なぜか苦しくなってしまうのである。女性にはこの噺が軽く演じられないんだろうな。それなら、むしろ、女性落語家が演じる『厩火事』は、女性自身の手で作り直されるべきではないか。
そのためには時間が要る。一花は、自分の信念を曲げ、従来通りの『厩火事』で勝負した。そして、その勝負に勝った。それは見事だと思う。
NHK新人落語コンクールには、一人の持ち時間が11分という制約がある。ガチに優勝をねらう出場者は戦略的だ。この前、やはりこのコンクールで優勝した立川吉笑の記事を読んだけど、まさに戦略的アプローチだったよ。まるで、M1グランプリに出る、漫才師のようだった。
ただ、それはあくまでコンクールという枠の中での優劣なのだと思う。もちろん、優勝するためには、11分の中で、他の誰よりも審査員や観客にインパクトを与えるだけの、構成力、演技力、ギャグセンスが求められる。落語的身体能力が高くなくては結果を残せまい。凡庸な者が優勝できるほど甘くはない。そこで結果を出すのは、非凡な才能を持つ、巧い落語家なのだ、と私も思う。
しかし、その枠から外れた者が、優れた落語家ではない、というわけではないだろう。落語家には各々個性や持ち味がある。11分では持ち味が出ない人もいるし、笑いのインパクトが少なくても優れた演者はいる。例えば、今、三遊亭圓生がコンクールに出たとして、確実に優勝するとは思えない。
歴代の優勝者を見れば、春風亭小朝や柳家喬太郎、春風亭一之輔のようなスターも多いが、一方で、柳家さん喬、立川志の輔、柳家三三などは、決勝に出場したものの、入賞はしていない。当り前のことだが、このコンクールが、後の落語家人生を決めるわけではない。(もちろん、大きなアドバンテージにはなるだろうが)
はて、何が言いたいんだっけ。
そうだ。春風亭一花には、いつか女性の『厩火事』を作ってほしいということだ。それは、もはや『厩火事』でなくてもいいだろう。女性落語家は達者な人が多い。「男の呟き」ではない落語は、私が知らないだけで、もう生まれているのかもしれない。
![]() |
| 写真がないと寂しいので、妻が昔海外で買った口紅の写真を載せる。 |

0 件のコメント:
コメントを投稿