私が落研の二つ目時代に覚えた噺について、思い出話をしたい。
1本目は、以前も書いたが「牛ほめ」。初の対外発表会出演のためのネタである。
二つ目になると、プロの録音で覚えていい。私も「牛ほめ」のテープを探したが、ない。
そこで、十代目桂文治に入門間もない、先輩の亭治さん(現小文治師匠)が、「文治の会」で「牛ほめ」を演ると聞いて、録音させていただくことにした。
だから、私の「牛ほめ」は十代目桂文治の型だ。文治の「牛ほめ」は、他とはちょっと違う。普通は家も牛も同じおじさんの所で褒めるのだが、文治は家を褒めるのは佐兵衛おじさん、牛を褒めるのは牛乳屋さんのおじさん家。くすぐりも多く、爆笑編に仕上がっている。この噺は1本目ということもあり、テープのまま素直に演った。春合宿でもウケて、牛乳屋さんのおじさんが与太郎に呟く、「やっぱり馬鹿だな。」というフレーズはちょっと落研の中で流行ったな。
本番は、今はなき本牧亭の高座であったが、この時もけっこうウケたなあ。
それから、私の鉄板ネタになってくれた。1本目の噺としては幸福な出会いでした。
夏合宿には2本の噺を持って行った。「垂乳根」と「豆屋」。「垂乳根」は桂南喬、「豆屋」はやはり文治だった。
「豆屋」は二代目紫雀さんに「(豆屋を脅す)最初の男と二番目の男が同じだ。」と駄目を出された。その後、随分文治のテープを聴いたが、二番目の男の方をより威勢をよくしているだけで、それでは私の力でははっきりと描き分けができないことが分かった。プラスによりプラスを足しても違いを際立たせることはできなかったのである。そこで、思いついたのが、ある恐れ多い先輩の口調だった。この方の語り口は陰陽で言えば、陰。それだけに怖い。で、最初の男を威勢よく、二番目の男をその先輩の声色で演ってみたら、これがハマった。
プロの落語家さんは、人物描写で実在の人物をモデルにすることが多いという。五代目柳家小さんは「長短」の気が長い方を、三代目桂三木助で演ったというし、八代目桂文楽の「酢豆腐」の若旦那のモデルは、五代目古今亭志ん生の天狗連時代の師匠、奇人三遊亭圓盛だという。
自分を文楽や小さんと比べるとは余りにおこがましいが、この時は上手く行ったのだ。
「豆屋」は自他ともに認める得意ネタになった。長く演っているうちに、先輩の口調からはどんどん離れて行ったけどね。
「垂乳根」は笑福亭仁鶴の「延陽伯」の気分を入れて演った。これはあまりモノにならなかったな。
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