ページビューの合計

2014年1月10日金曜日

桂文楽のスタジオ録音

職場の同僚が、「聴きます?」と言って落語のCDを貸してくれた。
『桂文楽セレクト』という「明烏」、「酢豆腐」、「厩火事」、「鰻の幇間」、「船徳」、「寝床」が入った2枚組。
音源は昔ビクターで出したLPレコードの『桂文楽全集』から。客なしのスタジオ録音である。
この音源は、ラジオ放送でもよく使われた。私が中学生の頃、カセットテープに録音した「鰻の幇間」も、この録音が音源となっていた。
落語の録音は、圧倒的にライブ盤の方がいい。やはり芸は客との共同作業。スポーツだって、観客がいるのといないのとでは、選手のパフォーマンスが違う。それと同じだ。
でも、改めて聴いてみると、この録音の出来がけっこういいのだ。収録は、昭和36年、37年。入歯を入れたばかりとはいえ、桂文楽の体力気力がまだまだ充実していた時期である。私はイヤホンで聴いていたのだが、これがまたいい。文楽の息遣いが直接耳に届いてくる。聴いていると、客がいなくても、次第に文楽が噺に入り込んでいく様子が手に取るように分かる。そのドライブ感、躍動感たるや、ライブ盤に迫る勢いだ。
その昔、立川談志と橘家圓蔵が前座だか二ツ目だった頃、文楽に「寝床」の稽古をつけてもらったことがあった。普通、噺の稽古は、特に感情を入れず、解説を加えながらぼそぼそと喋るのに、文楽は本番さながらの熱演をした。不器用だった文楽は、そういうふうにしか落語を喋れなかったのだろう。談志は圓蔵と帰る道すがら、「いいのか、俺たち、無料(ただ)であんな噺を聴いて」と興奮冷めやらぬ面持ちで言ったという。
私は客なしの「寝床」を聴きながら、若き日の立川談志のように、贅沢な気分に浸った。そうだな、それは私だけのために文楽が演じてくれているようにも思えたのだ。
客なしの、スタジオ録音の名作と言えば、三遊亭圓生の『圓生百席』がある。こっちの方は、圓生の完璧主義が見事に結実したものだ。圓生は、自らの録音を聴きながら、とちりを修正したり、間を詰めたりする編集の指示を出したという。
それに対し、文楽の方には一発録りの勢いがある。『圓生百席』は、ポール・マッカートニー主導によるビートルズ後期のスタジオ録音を思わせるが、文楽の方は、同じビートルズでも、デビューアルバムの「ツイスト・アンド・シャウト」のジョン・レノンの絶唱のようだ。
面白かった。同僚に感謝感謝です。

0 件のコメント: