立川談志考は一回お休み。ちょっと古い文章を載せておきます。
「猫の災難」という噺が好きだ。
友達が二人で飲もうといって買って来た酒を、熊さん一人が全部飲んじゃう噺である。(同じように、友達と二人で飲もうと思った酒を、一人で飲んでしまう噺には、「一人酒盛り」があるが、あっちは目の前に飲みたくてうずうずしている人がいるのに全部飲んじゃうんだから、タチが悪い)
この噺の聴かせ所は、何といっても5合の酒を、熊さんが何だかんだ言いながら、全部飲んでしまう所であり、その酔っていく過程を描く所にあると思う。
酒飲みを描くのに、演者自身が下戸の場合と上戸の場合とがある。前者は、酒席などで観察できるから、客観的な描写をするのにいい。後者は自分でその気分になれるという利点がある。どちらがいいとは一概に言えない。しかし、私個人的には、この噺は、酒好きな人にやってもらいたいと思う。
朝から飲みたくてしょうがなかった熊さんの前に酒がある。友達は、熊さんの言い訳を真に受けて、鯛を買いに行った。
「そういえば、あいつ酒屋で味見したって言ってたな。一杯ぐらいならいいだろう。」
何だかんだ言いながら、一杯が二杯・・・・・。
飲みたくってしょうがなかった酒だ。しかも、友達を気にしながらの、いわば盗み酒。禁断の味だ。うまくないわけがない。
熊さん、それでも人がいい。友達のために燗徳利に酒を取って置いてやろうとする。が、入れすぎてこぼしてしまう。そこは酒飲みの意地汚さ、畳にこぼれた酒をすっかり啜ってしまう。
こんなに入れたら燗が付けられないと、吸っているうちに徳利の酒を全部飲んでしまう。
気が付いたら、5合の酒をあらかた飲んでしまった。さあどうしよう。そうだ、また隣の猫のせいにしてしまおう。そうと決めたら、ぜんぶ飲んでしまえ。
この、開き直ってからの熊さんがいい。友達が鯛を買いに行っているのすら忘れ、ただただ酒を楽しんでいる。思わず出る、「今日はいい休みだったなあ」という言葉がいい。
こういう様を、酒が好きな人なら、自ら楽しみながら演じられるのではないか。そして、その、高座で演者が気持ちよく酔う様を、客席で楽しみたい。多分、私も喉を鳴らしながら、帰りにはどこかで酒を飲みたいなあと思いながらいるにちがいない。
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