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2011年5月12日木曜日

入船亭扇橋

志ん朝・談志に少し遅れて世に出てきた人たちとして、柳家小三治・三遊亭圓窓・入船亭扇橋・桂文朝などがいる。
この中では、現在、柳家小三治が名人の地位を確立し、一人抜きん出た存在となったが、他の人たちにも、やはり捨てがたい味がある。
私としては、小三治を除けば、入船亭扇橋がいちばん好きだな。
彼は、24歳という遅い入門で、最初の師匠、三代目桂三木助の死後、五代目柳家小さん門下に移り、小三治とは兄弟弟子になった。
前座だか二つ目だかの時、桂文楽から稽古に来いと言われ、真打ち昇進時には、三遊亭圓生から帯を貰ったというエピソードは、若いうちから扇橋が期待されていたことを示している。
私が中学の頃、よくラジオの落語番組に扇橋が出演していた。特に『穴泥』は面白かった。気の弱いにわか泥棒がよく彼のニンに合っていた。(私は、後で聴いた文楽の『穴泥』よりも扇橋の方がいいと今も思っている。)
扇橋は青梅の生まれだ。東京とはいっても山深い田舎育ち。しかも、彼は落語をやる前は浪曲師だった。粋とは程遠い。どこか土の匂いがするが、それがかえって彼の芸を滋味深いものにした。また、彼は「光石」の号をもつ俳人でもある。俳句の持つ軽み、侘びといったものも彼の落語に感じられる。
見るからに押し出しは強くない。無口な農民といった風貌である。飄々と高座に現れ、独特の唄い調子でふんわりと噺を始める。ドラマチックな展開はない。退屈と感じる人もいるだろう。だけど、あのしみじみとした味わいは、この人だけのものである。
甚兵衛さんなんかハマリ役だな。『鮑のし』がお勧めだ。『道具屋』『ろくろっ首』なんかの与太郎もぼんやりしてていい。私は何より甚五郎がいいな。最初の師匠三木助も得意にしていたが、三木助のは粋に過ぎる。甚五郎は田舎生まれのはずなので、扇橋の程よい野暮さがぴったりだ。師匠譲りの『三井の大黒』、『ねずみ』は絶品だと思う。
今は随分年取っちゃって、声量も落ちて、何だかもごもご言っているだけのように聞こえて、そのためにウケも少なくなってきてしまった。寂しい感じはするが、それもしょうがないだろう。がつがつしたところもなかったし、名人というのではないよな。でも、あのふわふわとした雰囲気が私は大好きなのよ。名人ではなくても伝説の人にはなり得るのかもしれない。もはや平成の林家彦六と言っていいんじゃないかなあ。

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