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2012年2月8日水曜日
田山花袋『温泉めぐり』
田山花袋、大正7年の作。あの『蒲団』で一大センセーションを巻き起こしたのが、明治40年。小説家としてはとっくにピークを越していた頃だ。
私としては、この人、小説よりこういうルポルタージュの方が面白い。変に深刻でないところがいい。
実際、旅行ガイドとして結構売れたらしい。
各地の温泉場を巡るといった内容だが、これがまた日本全国津々浦々にまで及んでいる。何と朝鮮、満州、台湾に至るまでだ。(そうか当時は国内だったんだね。)草津、熱海といった有名どころは言うに及ばず、鉱泉の沸かし湯といった類いまでフォローしている。有名無名問わず、そのラインナップは見事と言っていい。しかも大正の風俗が生き生きと描かれているんだよなあ。
まあよくも歩いたもんだな。もしかしたら、花袋こそ漂泊の人なのかもしれない。そんなに高尚に思えないところがまた偉い。
各温泉の批評がもう言いたい放題。実名を挙げて「見るところはない」なんて平気で書いてある。今のガイドブックじゃあできない芸当ですな。でも、どの温泉も、とりあえずは行ってみたくなる。不思議なもんだ。
風景、宿、食べ物といろいろ紹介されている中で、花袋さんが割と熱っぽく語るのが、女についてだったりする。美人が多いとか芸者がどうとか、こういう件が多いのよ。そういえば、『東京震災記』を読むと、あの大地震の後、花袋がいてもたってもいられなくなって家族を置いて向かったのが、深川かどっかの馴染みの妓の所なんだよなあ。女は好きだねえ。
ま、それはともかく温泉はいいね。好きな時に大正時代に各地の温泉にトリップできる本です。
このブログで田山花袋を取り上げるのは3冊目。取り立ててファンという訳ではないのだが、何か引っかかってくるんだよねえ。
写真は岩波文庫版。カバーがいい。
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