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2012年9月9日日曜日

立川談之助『立川流騒動記』

著者は立川談之助。立川談志の落語協会時代からの弟子である。
談之助との出会いは、ちょっとばかり不幸なものであった。初見は落語でなく講演。これが面白くなかった。落語でいえば投げた高座であった。思ったより受けなったのであろうが、聴衆をこんなもんだと高をくくっていた印象は否めなかった。
その後、彼のHPを見つけた。その中の、「噂の志ん相」という掲示板は面白かった。特に読者からの質問に対する答えは、理路整然として分かりやすかった。
この本もそうである。師匠立川談志との年月が、理知的に客観的に語られる。資料としても一級品だな。談志礼賛に淫していない。程よい距離感は、快楽亭ブラックに通じる。
談志の参議院議員時代の秘書としての体験談、落語協会分裂騒動、落語協会脱退立川派旗上げ等、波乱万丈の内容。しかし、それらはすべて著者の望んだことではない。風雲児、師匠談志がやらかしたことに巻き込まれただけのこと。天才は常に人を翻弄する。
私としては、著者の明治大学落研時代の話が楽しかった。「明大落研物語」といった趣がある。しかも、登場人物が贅沢だな。先輩に三宅裕司、同輩に立川志の輔、後輩に渡辺正行、立川談幸。凄いよなあ。
談之助は、群馬の名門、前橋高校から明治大学に進んだ。本人の言う所では、ろくすっぽ勉強もしなかったという。頭のいい人なんだ。文章からもそれが分かる。それだけに、がつがつとしたところがない。自分の立ち位置も、自分でこんなもんかな、と決めてしまう。どこかしら冷めた感じ。でも、こういう本を書くにはうってつけの人だ。余計なフィルターがかからないのがいい。
実はこの本は、談志がまだ健在の頃に企画されていたものらしい。やっと出版の話がまとまった辺りに談志が死んだ。それを機に、談之助は原稿を書き換えたという。「師匠が見るかもしれないということでフィルターをかけた部分をすべて外す」ことにしたのだ。そうだよな、怖いもんな、談志師匠。
でも、暴露本ではないぞ。稀代の天才立川談志と、彼の引き起こした数々の事件の真摯な記録である。
もっともっと、本を出して欲しい人だと思うね。

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