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2012年11月29日木曜日

吉行淳之介『星と月は天の穴』

吉行淳之介『星と月は天の穴』、読了。
タイトルは主人公の小説家が、星をきれいだという女に「あんなものは、空の穴ぼこだよ。」と言い放つ虚無的な言葉に因む。(彼が作中で執筆する小説のタイトルにもなる。)
元ネタは落語だな。親子三人の馬鹿の小噺。
夜空でぴかぴかするものを取ろうとして、竿を振るったり屋根に上ったりする兄弟に向かって親父が言う。「馬鹿、あれは雨の降る穴だ。」それを聞いて母親が「やっぱりお父さんはしっかりしてる。」ってやつ。与太郎噺の枕によく使われる。
それを小説のタイトルに使うというのも、なかなかのセンスだなあ。
話は、40歳の小説家と女子大生の物語。お馴染み、体は合わせるが、心は合わせたくない、吉行的「非人情の世界」である。
『砂の上の植物群』では、ソフトSMが小道具として使われていたが、この作品では何と「入れ歯」。主人公は40歳で総入れ歯、そこに複雑な感情を抱いている。すごい設定だよな。吉行さん、食えない人だ。
この小説に対する開高健の言葉が面白い。「女がオシッコ洩らして、そこからはじまる恋愛小説というのは、古今東西、見当たりませんなあ。」
これが「恋愛小説」かどうかは、作者自身、首をひねっているところではありますがね。

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