主人公、杉尾と、彼をめぐる3人の女の物語。
献血場で知り合った井出伊子。同級生の妹、萱場国子、酒場の女将。この女が3人とも、何かしらの傷を抱え、微妙にバランスを崩している。
古井の小説には、こういうバランスを崩した女がよく出てくるな。
伊子は、自ずから痴漢を呼び寄せてしまう。国子は過去に何者かに辱められていた記憶を持つ。女将(彼女は過去に1度だけ杉尾と関係を持っている)の自宅マンションの二つ上の階の部屋では、殺人事件が発生する。
ちっとも具体的でない描写。独特の言い回し。時間軸も過去と現在を行き来する。決して読みやすい話ではない。
でも、これが癖になる。
仄暗い、しかし、闇の中に白く浮かび上がってくるような、どこか湿り気のあるような、そんな感じの文章。(どんな感じだ。)それが、決して甘くはない官能を掻き立てる。
ま、自分でも何書いているか分かんなくなってきたけど、古井由吉だけの世界が、そこにあるのだ。
落語でも何でもそうだが、その人だけのものを掴んだ者が勝ちなんだよな。
もつれもつれあいながら、やがて、3人の女のうちの1人、萱島国子の過去の傷の全容が露わになってゆく。
息もつかせぬ面白さってわけじゃない。だけど、あわあわと惹き込まれていく小説だったなあ。
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