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2016年8月25日木曜日

小泉今日子『黄色いマンション 黒い猫』

小泉今日子が50歳になった。というので、かどうかは知らないが、いくつかの雑誌で彼女の特集が組まれ、それがなかなかの売れ行きだという。ちょっとした「キョンキョンブーム」なのか。
実は私、昭和の時代からの小泉今日子ファンなのである。ファンといっても、ハチマキ締めてペンライト持ってハッピ来て「キョンキョーン」なんてやってた訳ではない。改めて振り返ってみると、疑似恋愛の対象だった訳でもないなあ。正確に言えば、彼女は私にとって「尊敬する人物」だったのかもしれない。彼女は若い頃から、ずっとキュートでとんがっててカッコよかったけど、どこか冒し難い気高さがあったような気がする。
それは今回、彼女のエッセイ集『黄色いマンション 黒い猫』を読むに至って確信となった。 

この本は、雑誌『SWICH』に連載された「原宿百景」という文章に、描き下ろしエッセイ1編を加えてまとめられたものである。彼女が青春時代を過ごした原宿の街、出身地神奈川県厚木での思い出、様々な人との出会いと別れ等が、瑞々しい感性で綴られる。特に大切な者たちとの永遠の別れが印象的だ。幼なじみ、後輩アイドル、愛猫、父、姉、仕事仲間・・・。彼女の死者に対する眼差しは優しい。優しくて悲しい、それでいて奥の方からじわっと元気が出てくる文章である。
それにしても小泉今日子の、何と聡明で繊細で健気で魅力的であることよ。しかもしっかり背筋が伸びて腹が据わっている、潔い。それは「16歳の時から大人たちの中でたった一人で闘って来た」という矜持によるのではないかと私は思う。
アイドルになり高校を中退、10代で社会人となって常人では味わえないような体験をした。一方で本当にたくさんの本を読んだと彼女は言う。小泉今日子は自分の力で自分だけの言葉を獲得していったのだ。

「はじめに」という文章で、小泉今日子はこの本を寿司になぞらえてこう書いている。「できるだけ鮮度のいいネタを握りたいと、一見さんお断りのお寿司屋さんみたいな気持ちで書きました。なんでお寿司屋さんに喩えたのか自分でもわからないけれど、江戸っ子みたいにパクッと一口で食べてください。いや、読んでください。」
丹念に仕事をした、生きのいいいネタが揃う。しかも供されるのは小泉今日子にしか握れないモノだ。たまんないな。34編、大切に読んだ。贅沢な時間を過ごさせていただきました。

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