野外料理といえばまずバーベキューが頭に浮かぶ人が多いと思う。しかし、あれは途中で必ず飽きがくる。たれの味が画一的過ぎるのだ。そこで私はこの秋、野外料理のイチオシとして鍋を強く推したいと思う。
以前、私は職場の仲間と那珂湊の堤防で、浜鍋をやったことがある。この時は、その場で魚を釣り、釣れた魚をそのまま鍋にぶちこんで食っちゃおうという、いささか無謀な計画を立てた。
SさんとMさんとKさんが魚を釣り、私とOさんは鍋を担当することになった。早速二人で水を汲み、流木を集め、お湯を沸かした。野菜も刻み、準備は万端整った。ところが、肝心の魚が一向に釣れない。釣り担当主任のSさんは「今日は潮が悪いなあ。」などと不吉なことをつぶやいた。
仕方がないので、私達は市場へ行って牡蠣と鱈を買ってきて、鍋を作り始めることにした。Sさん達はそれでもしばらくの間釣りをしていたが、やがて竿を畳んでこう言った。「我々にも釣り師のプライドがある。魚代は我々がもつ。」 Sさんが市場で買ってきたのは、サワラを丸ごと一本と、わたり蟹だった。彼は以前スーパーの鮮魚部にいたので、魚をさばくことなどお手の物だ。あっという間にサワラを三枚に下ろして刺身にし、頭や骨は鍋にぶちこんだ。「これがいい出汁になるんだよ。」と言って、Sさんはにやりと笑った。蟹はそのまま鍋に入れる。味付けは醤油と日本酒だった。
これがうまかった。それぞれの具の味が渾然一体となって、我々の舌を襲った。村上龍の言葉を借りればまさに「海そのものを食べている」気がした。
周りにいた釣り人達も匂いにつられてやって来た。私達は気軽に彼らを招き入れ、鍋をふるまった。それでも私達は一様に、あんまり遠慮なしにばくばく食うなよな、という顔をしていたらしい。彼らは、スープでいいよ、スープで、うまいなあ、何で出汁とったの? などと口々に言っては、釣り師は皆友達だもんな、と言って笑った。
とっぷりと日が暮れるまで饗宴は続いた。私は味付けに使った日本酒をワンカップ5本も飲んでしまい、へろへろになってしまったのであった。
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