日本人なら一度は読んでみなきゃと思い、大谷崎の『細雪』に挑戦した。
上中下巻と本当は3冊のところを、中公文庫は太っ腹だ。1冊にまとめてくれた。
没落した旧家、蒔岡家の四姉妹のうち、次女幸子、三女雪子、四女妙子を中心に、幸子の視点で描いた一大絵巻。花見、蛍狩り、芝居見物等々、関西文化が色濃く匂い立つ。東夷の野蛮さをつくづく思い知らされました。
それにしても閉じた世界だな。世の中は第二次世界大戦にひた走る中だってのに、最大の関心事は縁談だの、顔のしみだの、菊五郎の芝居だのといった具合。
でも、それがあの時局での谷崎の見識だったのだな。天下国家を語る男の視点ではなく、ひたすら目の前の美しいものへ向かう女の視点をとったのだ。
とはいえ、そこは谷崎、この本格小説の中に、ほのかに妖しいところも十分にある。
幸子は出血を見ながら、無理して雪子の見合いに同席し流産してしまう。
妙子は赤痢に罹り、酷い下痢のため、おまるに跨ったままもだえ苦しむ。後には未婚のまま妊娠し、胎児の毒素を吐きながら死産する。
雪子にしても、縁談がまとまり東京へ旅立つ途上、下痢に悩まされる。
美しい三姉妹が、血に糞便に汚される。すげえなあ。
文庫本で930ページ余り、大河の流れに身を任せればよい。雪子の縁談、外国人家族との交流、水害、本家との確執、妙子の奔放な恋愛など、様々な事件が起こり全然退屈しなかった。いつまでも読んでいたい小説だったな。
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