著者は名古屋を拠点にしている落語家。以前は談志門下で「立川志加吾」を名乗っていた。
破門になって名古屋の雷門小福の弟子となった。立川時代からマンガを描いており、『風とマンダラ』という単行本を出している。
この本は、名古屋芸人列伝といった感じ。(立川談志も、もちろん入っているが。)
獅篭のそれぞれの芸人に対する熱い思い入れが伝わってくる。この人は、本当に芸が好きなんだなあ。
私は2004年の夏、岐阜T君と共に、名古屋の大須演芸場に行ったことがある。名古屋を旅した時の、私のたっての希望を入れてくれたのだ。
客は私たちを入れて4、5人といったところ。そのうらぶれた雰囲気は、昔の端席とはかくやと思わせるに十分だった。
モノマネ漫談・なごやのバタヤン(売り物が田端義男のモノマネというだけでも前世紀の遺物臭が漂う)、紙切り・大東両(読みは「だいとうりょう」、「閣下」と呼ばれていたという)、曲独楽・柳家三亀司(三亀松一門か?)といった面々が次々と高座に上がる。仲トリに獅篭が上がった。ネタは『夏泥』。立川の口調だった。トリは漫談の伊東かおる。
落語が一本、トリが漫談という東京の定席ではありえない構成であった。全体的に華のない、多少愚痴っぽい印象はあったが、楽しかった。いい思い出になっている。
たった一度の逢瀬であったが、この本に出てくる彼らに再会して嬉しかった。
獅篭描く彼らは妖しく、そしてカッコいい。
紙切りの大東両閣下は、晩年「ガンダム」紙切りで売れたのか。あの時、私はイチローを切ってもらった。東京の寄席では紙切りの注文の競争率がハンパなく高いが、大須では高座から客に向かって「何切る?」と訊いてくるのだ。当時は松井秀喜のヤンキース入団が話題だったが、私は愛知に敬意を表しイチローをリクエストした。閣下は「松井じゃなくてイチローというのが偉い。イチローの方が特徴があって切りやすいんだ。」と褒めてくれた。またこれが仕事が丁寧で時間がかかるの。色んな意味で洗練とは対極にあったなあ。
登場する芸人は、ほとんど一般的に知名度はない。でも、みんな濃い人たちだぞ。芸人だけじゃない、裏方のスタッフも、とてつもなく濃い。芸は魔物だ。芸に魅せられ芸に溺れた、普通でいられない人たちばかりだ。
芸人からは、快楽亭ブラック、大東両、雷門小福、雷門福助、伊東かおる、三遊亭歌笑、桂ぽんぽ娘、いか八郎、そして立川談志。スタッフからは足立秀夫席亭、従業員姫。おまけが獅篭のいとこY。どれも凄い。
獅篭の筆致も「風マン」の頃より、確実に深みを増している。雷門獅篭、渾身の一冊だな。買ってよかった一冊です。
写真は2004年8月の大須演芸場。
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