ページビューの合計

2014年7月22日火曜日

風柳の根多帳④

久々、持ちネタシリーズ。今回は『らくだ』。
4年の夏合宿に持って行った。
高校生の頃、五代目柳家小さんのを聴いて以来、いつか演ってみたかった。
小さんの『らくだ』は、「冷やでもいいからもう一杯」のサゲまで1時間かかる大作だった。
だけど、当時の私には、ちっとも長く感じなかった。小さんの噺に、すっかり引き込まれてしまったのだ。
特に、丁の目の半次に脅されて、屑屋がらくだの死んだのを皆に知らせて回り、最後に酒と肴を出すのをしぶる大家の所で、らくだの死骸を運び込み、かんかんのうを踊らせて、見事酒を持ってこさせ、飲み食いをする場面が大好きだった。(一文が長いなあ。)
小さんの手にかかると、まさにそこに「芋、蓮、はんぺん、塩を辛目にした煮しめ」が現れるのだ。そして、半次が無理矢理飲ませた酒が利いてきて、屑屋が思わずもらす、「親方、勧め上手だから…」の一言の可笑しさ。会場の観客の、じわじわと広がる笑いが、小さんの芸の凄味を際立たせた。
小さんの屑屋は、談志のように心情を吐露しない。らくだの酷い仕打ちを思い出して感情を爆発させたりしない。でも、状況の波に翻弄され、昼酒の酔いに暴走してしまう人の好さを、小さんは何気なく描いてゆく。
基本的には、八代目三笑亭可楽のテープで覚えた。
可楽は、小さんが1時間かけて演るところを、30分で演じてみせる。確かに演出は荒っぽいが、そのスピード感がいい。
可楽をベースに、小さんの気分で構成してみる。サゲまではやらない。火葬場まで聞き手を引っ張っていく力量は、今の自分にはないと判断した。
らくだを坊主にするのに、髪の毛を引っこ抜くという可楽の演出は採用した。引っこ抜くのに疲れて、屑屋が半次に剃刀を借りに行かせる。「貸すの貨さねえの言ったら、死人にかんかんのう踊らすって言え」というのをサゲにした。
ここまでで30分。まあいい切れ場でしたな。
髪の毛を引っこ抜く場面で、アドリブで「楳図かずおの世界だな」と言ったのを、当時はOBとなっていた三代目紫雀さんが聴いてウケてくれた。
「いかにも伝助らしくてよかったよ」と紫雀さんは言ってくれた。
この噺は、ニンに合っていたんでしょうな。演ってて手ごたえがあった。ただ、おいそれとできるネタではなく、客前ではできなかった。演ってみたかったな。

余談。
この前OB会で、夢三亭おち坊君と話した時、私の『らくだ』について、こんなことを言われた。「当時、僕は、この人は何でこんな面白くない噺を演るんだろうって思っていました。」
…どうやら、私の手ごたえは伝わってなかったみたい。

0 件のコメント: