この前寄席に行った時、小円歌が出ていた。昔の名人の出囃子を弾いてくれたのだが、これがよかったねえ。
出囃子というのは、文字通り落語家が高座に出るときのテーマソング。邦楽からの選曲が一般的だが、その人の個性に合っていて下座さんが弾ければ何でもありだ。(春風亭昇太は「デイビークロケット」を使っている。)それだけに、出囃子はその落語家と密接に繋がっている。
華やかな「野崎」の後には「いっぱいのお運びでありがたく御礼申し上げます。」という抑えた調子の先代文楽の口上が聞こえるし、ちょっととぼけたような「一丁入り」の後には「昔は、ってえと、」と志ん生の甲高い声が聞こえる。
実際に自分が見た落語家の出囃子だともっとリアルだな。「本調子序の舞」では、まるで木刀を持つみたいに扇子を持った先代小さんが、のっしのっしと高座に現れる姿が見えるし、「祭囃子」では先代三平の賑やかな登場が目に浮かぶ。「老松」では志ん朝が現れたときの、客席がぱあっと明るくなるような感じ、「木賊刈り」では談志の現れる前の痺れるような緊張感が蘇る。まさに出囃子はシンボルだ。
そういえば、昔は出囃子に合わせて落語家の形態模写を演る人がいたものだ。前落語協会会長、鈴々舎馬風が寄席でよく演ったものだし、春風亭小朝も上手い。もっと昔は柳家小三治も演っていたらしい。演り手がいないのか、それとも需要がないのか、現在は見たことがないなあ。
落研時代も出囃子は決まっていた。やはり、素人なので好きな落語家や先輩に影響された。
先代馬生の熱狂的なファンだった紫雀さんはしっかりと「鞍馬」を使っていた。(口調は志ん朝そっくりだったけど。)私の同期では志ん朝命の弥っ太君は「老松」。先代可楽が好きだった(渋いなあ)八海君は「勧進帳」。世之助君は曲名が面白いと言って「のっと」。悟空君は、先輩の歌ん朝さんが使っていた「ぎっちょんちょん」(彼は真打ちになる時、歌ん朝を継いだ)。酒合丈君は「外記猿」だったかな、自信ないや、ごめん。夕姫さんは確か「梅は咲いたか」。楓さんは枝雀の「ひるまま」だったような…。
私は2年の時には「元禄花見踊り」だった。先輩に「お前にぴったりだ」と言われて、半ば無理矢理決められた。私は圓楽が嫌いだったので、嫌で嫌で仕方がなかった。3年になって、好きなのを使えるようになって迷わず決めたのが「木賊刈り」。何より談志が好きだったし、これで上がるとすんなり落語に入っていけるような感覚があった。
私が卒業した後は大福君が使ったのかなあ、「木賊刈り」。
0 件のコメント:
コメントを投稿