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2016年10月3日月曜日

佐野元春

ダウンタウン・ファイティング・ブギウギ・バンドの翌年の学園祭は、佐野元春が来た。
当時高校3年だった私の妹は、このライブをぜひ観たい、と言って、私に切符を買わせた。
当日は向ヶ丘遊園の駅で合流して大学に行った。ライブの前に落研の部室に連れて行った。突然の女子高生の来訪に落研部員は色めき立ったものだ。
まあいい。 佐野元春は、名曲「アンジェリーナ」をひっさげてデビューしたばかり。「ダウンタウン・ボーイ」とか「ガラスのジェネレーション」も演ってたな。ラストは「サムデイ」だったような気がする。佐野もまだ若かった。上質なシティポップスが瑞々しく躍動する、素晴らしいステージだった。

間もなく、佐野元春は、アルバム『サムデイ』で大ブレイクする。このアルバムは落研内でもよく聴かれていた。
同期の悟空君が大好きで、表題曲「サムデイ」の、「素敵なものを素敵だと素直に笑える心が好きさ」という歌詞を引用しながら、「お前にはこういうところが欠けているんだ」と諭された覚えがある。

大学を卒業し、社会人になってすぐ、佐野の新作『ヴィジターズ』が出た。日本初のラップを取り入れた楽曲は賛否両論を生んだ。 私の友人は「つまらん」と言って、さっさと佐野のファンをやめた。私は、その友人から『ヴィジターズ』をダビングしたカセットテープを貰う。
かっこよかったんだ、これが。「トゥナイト」、「カム・シャイニング」、「ニューエイジ」・・・。どの曲も、行ったことのないニューヨークの匂いがした。
それから佐野の新作が出ると買うようになった。『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』まで買って、何となくこれ以上のものは出てこないだろうな、と思って買うのをやめた。 

そんなふうにして10年以上が過ぎた。ある日、内原イオンに入っているCDショップで佐野元春の『ザ・サン』を見つける。
何の気なしに買って聴いてみると、これがいい。相変わらずとんがっているけど、年を経て深みを増している。1960年代半ば過ぎ(ボブ・ディランでいえば『ブロンド・オン・ブロンド』の頃か)を思わせるサウンドが、しっくりと肌になじむ。悠々と日常を歌う佐野元春に、私は大人の風格を感じた。
 そうだ、それはまさに「大人のロック」というべきものだったのだ。
そしてまた、私は佐野元春の新作をせっせと(と言うほど次から次と出ているわけではないけど)買うようになっている。 

アルバム『ゾーイ』の中の1曲、「虹をつかむ人」がいい。
「仕事に生活に人のことばかり 毎日に追われてきた君
街には音楽が溢れてるけれど 誰も君のブルースを歌ってはくれない」
切ないなあ。さり気なくこういうことを歌ってくれる人、いなかった。そして今、佐野元春が歌ってくれている。
でもこれで終わんないんだ。続けて佐野はこう歌う。
「波に向かって風を切って ひるむことなく立ち上がる君
まるで野に咲く花のように 嵐が通り過ぎるのを待っている
おおらかな人生を夢見てる君 虹をつかむまであともう少し」
もうこの辺まで来るとね、目頭が熱くなる。
日々の暮らしは思うようにならない。それでも頑張らなきゃな。素直にそういう気持ちにさせてくれる。

佐野元春の背中を見ながら、ともに年を重ねて行く。それが、今の私にとって大きな喜びなのである。

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