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2010年2月14日日曜日

小林茂子『生きてみよ、ツマラナイと思うけど』

伝説の名人、三代目桂三木助の娘にして、悲劇のプリンス四代目三木助の姉である著者が、その波瀾万丈の半生を語る。一度本を開くと、もう目が離せない。一気読みしてしまった。
私は、著者を30年前から知っている。高校の頃、夢中で読んだ、安藤鶴夫の『三木助歳時記』に、彼女が登場するのだ。その中で彼女は、死に臨む父三木助にメロンを食わせ、ピアノを弾いて聴かせる。その可憐な幼女が、生身の女として自分を、父を、弟を語る。
ああ、それにしても壮絶な人生だな。幼くして父を亡くし、2度の結婚に失敗し、息子は高校でいじめの被害に遭い、息子の学校の法人部長からはセクハラを受け、様々なトラブルを共に格闘した弟はその最中に自殺を遂げる。弟の死後、働いていた派遣会社では不正を看過できず退職に追い込まれ、鬱病を抱え込む。
一方で五代目柳家小さんから溺愛され、立川談志と濃密な交流を持ち、古今亭志ん朝に細やかな気遣いをされる。
よくも悪くも運命に魅入られた人なのだな。銀行員時代。談志の弟子との最初の結婚。弟四代目三木助のマネージャー生活。誰も彼女を放っておかない。誰かがいつも彼女を過剰な渦に巻き込んでしまうのだ。
弟の自殺の経緯が語られる場面は、まさに圧巻だ。
精神的に追いつめられ体調を崩し、のたうちまわり逃げ回る弟。姉は息子の学校とのトラブルに翻弄され、弟の苦しみに向き合えない。弟は何日間か行方をくらまし、やっと自宅に戻った翌朝、首を吊った姿で発見される。
そうか、あの三代目夫人、仲子さんと著者の息子、現在の桂三木男が、四代目の心臓マッサージをしていたのか。
四代目桂三木助の死に顔は、満面の笑顔だったという。言葉がない。
この本のタイトル『生きてみよ、ツマラナイと思うけど』というのは、立川談志が著者に贈った言葉である。談志は優しく温かい人だな、こういう人だから、あんなに人を感動させることができるんだろうな、と私は素直に思ったよ。
奥付に小林茂子さんの写真がある。いささか陳腐な台詞になるが、凛として美しい。

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