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2014年6月4日水曜日

高野文子『絶対安全剃刀』他

高野文子、『絶対安全剃刀』。大福さんのブログに出てきたが、これがまた私にとっては、どストライクなのだ。
私は大学時代、川崎の4畳半のアパートで、破滅型純文学とともに、マンガにも耽溺していた。つげ義春、いしかわじゅん、吾妻ひでお、坂口尚、大友克洋…、そして、女流では、何といっても高野文子と近藤ようこだ。
『絶対安全剃刀』の奥付を見ると、「昭和57年2月15日 第3版発行」とある。ということは、私がこの本を買ったのは、3年の終わり頃か。
その頃には、私は1人で酒を飲む習慣が出来ていて、割とこまめにアパートに帰っていた。きっと、三上寛とか友川かずきとか友部正人なんてところをかけながら、サントリーレッドをあおっては、読みふけったのだろうな。
発想の奇抜さ。多彩な才能。完成度の高い絵。何もかもが衝撃だった。
中でも、『田辺のつる』は凄い。大友克洋が描くようなリアルタッチの人物が居並ぶ中、主人公の認知症の老婆のみが、いかにも後の高野文子調のシンプルな線で、彼女の精神世界そのままの幼女に描かれるのだ。この手があったか、と誰もが瞠目した表現だった。
作品集の最後を飾る『玄関』の郷愁、不条理ギャグの『アネサとオジ』、近藤ようこにも通じる若い女の心の暗部に迫る『はい―背筋を伸ばしてアナタノバンデス』『うしろあたま』、大友克洋調の『方南町経由新宿西口京王百貨店前』、江戸戯作に題材をとった『早道節用守』(杉浦日向子みたいだが、絵の完成度が違う)、死を扱いながら軽やかに厳粛な『ふとん』等々。格調高雅、意趣卓逸、どれもこれも作者の才の非凡さを余すところなく示している。(都会に憧れる田舎の女子高生がラジオ番組にリクエストするサザンオールスターズの曲が『タバコロードのセクシーばあちゃん』だぜ。センスいいよなあ。)
ただ、余りに多彩であるため、ちょっとばかり統一感に欠ける印象はある。(絵柄も作品によって全然違う。)ビートルズでいえば、名曲ぞろいだが、いささかとっちらかった感じの『ホワイトアルバム』ってところかな。
そして、ビートルズが『ホワイトアルバム』の後、完成度の高いトータルアルバム『アビイ・ロード』を出したように、高野文子は第2作品集として『おともだち』を出してくるんだな。前半が「日本のおともだち」、後半が「アメリカのおともだち」という2部構成になっているのも、A面がジョン、B面がポールの個性が際立つ『アビイ・ロード』みたいだ。
中でも『春ノ波止場デウマレタ鳥ハ』は圧巻だぞ。これで私は完全にノックアウトされたのだ。
物置から『るきさん』『棒がいっぽん』『黄色い本』も持って来て読んだけど、やっぱ凄いわ。
寡作だし、マンガファンじゃないと名前を知らない人かもしれないけど、出会えてよかった。高野文子のおかげで、(大げさかもしれないけど)私の人生は随分豊かになったと思うのである。

大福さんのブログ、しばらく更新がなかったけど、復活してくれて嬉しいよ。楽しみにしていますんで、これからもこまめに更新してくださいね。

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