① 富久 ( 26 分 16 秒 )
① つるつる ( 26 分 16 秒 )
③ 寝床 ( 25 分 33 秒 )
④ 素人鰻 ( 24 分 18 秒 )
⑤ 明烏 ( 23 分 26 秒 )
⑥ 干物箱 ( 22 分 29 秒 )
⑦ 景清 ( 21 分 32 秒 )
⑧ 鰻の幇間 ( 21 分 15 秒 )
⑨ 星野屋 ( 20 分 53 秒 )
⑩ 船徳 ( 20 分 34 秒 )
⑪ 厩火事 ( 20 分 34 秒 )
⑫ 愛宕山 ( 20 分 15 秒 )
⑬ 王子の幇間 ( 19 分 12 秒 )
⑭ 心眼 ( 18 分 41 秒 )
⑮ 酢豆腐 ( 18 分 30 秒 )
⑯ 穴どろ ( 18 分 26 秒 )
⑭ 馬のす ( 17 分 29 秒 )
⑱ 締め込み ( 17 分 18 秒 )
⑲ よかちょろ ( 17 分 14 秒 )
⑳ 夢の酒 ( 16 分 26 秒 )
㉑ 厄払い ( 15 分 2 秒 )
㉒ しびん ( 13 分 37 秒 )
㉓ 松山鏡 ( 13 分 30 秒 )
㉔ かんしゃく ( 13 分 25 秒 )
㉕ 悋気の火の玉 ( 12 分 45 秒 )
㉖ やかん泥 ( 10 分 34 秒 )
㉗ 大仏餅 ( 10 分 16 秒 )
CDブック『完全版八代目桂文楽』収録の演目を、口演時間の長い順に並べてみた。こう並べてみると、どれも短い。いちばん長いもので「富久」と「つるつる」の26分16秒。ちなみに古今亭志ん朝の「富久」は51分22秒、柳家小三治はこの噺を59分15秒かけて演じている。(いずれもCBSソニー「落語名人会」シリーズのCDより)文楽の「富久」の口演時間は、実に志ん朝・小三治のそれの半分しかないのである。
20分34秒の「厩火事」も、もとは三代目小さんの型で40分以上あったのを、ここまで刈り込んだということだ。「心眼」など、あのドラマチックな噺をわずか18分41秒で演じてみせるのだから、やはり驚異的である。
文楽が自らの落語を完成させるのに、徹底的に無駄を省いた、ということは有名である。
CDブック第10巻に、文楽の弟子、六代目三升家小勝、七代目橘家圓蔵、五代目柳家小さんの対談が収められているが、その中で小勝が、こんなことを言っている。
「亡くなった圓馬師匠(三代目)に稽古をつけてもらった話でね、(稽古してもらった噺を)すぐに(高座に)かけない。原稿用紙書いて全部頭の中に入れちゃって、で、今度は私たちを前に置いて、おい聞いとくれ、と言って演ってみる。で、どうにか自分の納得のいくようになって、当時研究会(落語研究会)ってのがありましてね、その研究会にかけてね、で、こいつが研究会でできて、またこれでお蔵にしちゃう。それで、寄席(せき)で演る、商いにする噺にするまでには、まだまだ時間が長い。で、30分あった噺を28分にし、25分にし、20分になると、どうやら商いになると。つまり無駄を取っちまうわけです。」
文楽落語の完成へのアプローチの一端が垣間見えて、興味深い。貴重な証言だと思う。
ここで私が感じ入るのは、文楽にとっての噺の完成形が、「寄席で演じられるもの」ということだ。寄席で日常的に演じることができて、初めて噺が「商い」になる、というところに、文楽のプロとしての矜持が見える。
文楽は、「お客がもつのはせいぜい25,6分だ」と常々言っていたという。文楽自身の口演スタイルからいっても、その辺が限界だったろう。しかし、そのサイズに噺をまとめることで、疾走感が生まれた。文楽全盛時を知る者は、口をそろえて「ものすごい迫力だった」と言う。その迫力は、20分を駆け抜ける疾走感によるものが大きかったのではないだろうか。
その勢いを保つためにも、無駄は省かれなくてはならなかった。「景清」「王子の幇間」「締め込み」「よかちょろ」はサゲまで演じられていない。また導入部をカットしたものもある。「厩火事」(髪結いの夫婦のなれ初めのくだり)、「明烏」(藤兵衛の稲荷祭りの地口行燈のくだり)、「鰻の幇間」(穴釣りのくだり)、「締め込み」(間抜け泥のくだり)が、その例として挙げられよう。それ以外の噺でも、台詞や情景描写は極限まで刈り込まれた。あくまで、噺の核心や見せ場に焦点を当てた構成である。
ただし、その手法は、あくまで「文楽が文楽の演じやすいように」、取られたものだ。文楽落語はぴかぴかに磨き上げられた完成品として観客の前に供されたが、それが普遍的な意味での完成形であったとはいえまい。事実、後代の落語家が、文楽ネタに挑戦する場合には、大きな再構築を迫られた。
この収録の中で、いちばんの珍品は「馬のす」であろう。何しろあの文楽が、17分29秒の口演時間中、8分50秒も枕を振っているのだ。しかも、一つ毬の曲芸で売った春本助治郎の思い出話から、お題噺のやり方、大喜利の墨の付け方へと話題が転がっていく、いわばフリー・トーク。らしくない高座である。20分弱の口演時間に合わすのであれば、「馬のす」の後に「大仏餅」をつなぐのが、文楽としては一般的なのだが、この時は違ったのだな。おかげで文楽の意外な一面を見ることができた。面白い。
柳家小満んが、著書『べけんや』の中で、文楽が寄席に出演した時の演目を挙げている。
鈴本の初席、昼のスケでは、「馬のす」「厄払い」「やかん泥」「松山鏡」「大仏餅」「悋気の火の玉」「しびん」「かんしゃく」「締め込み」「王子の幇間」。
一方、鈴本初席夜の部のトリでは「明烏」「景清」「厩火事」「素人鰻」「寝床」「按摩の炬燵」。お盆の新宿末広亭のトリでは「船徳」「鰻の幇間」「酢豆腐」「心眼」「よかちょろ」。
スケでは10何分の噺ばかり、トリでは20分台の噺が中心だ。ネタは少ないが、どれも名品ばかり。噺の重量感によって、スケとトリとで使い分ける。この辺りの文楽の神経の細やかさ、几帳面さに改めて感じ入る。
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