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2017年9月27日水曜日

『噺家の魂が震えた名人芸落語案内』 解説:六代目三遊亭円楽 著者:噺家三十人衆

2016年11月の「博多天神落語まつり」に出演した落語家に実施したアンケートを基に、名作落語ランキング52編を厳選し、六代目三遊亭円楽が解説を加えた。
アンケートは「お客様にぜひ聞いてほしい落語」「自分が一番好きな落語」など、上限を設けず、最低10席挙げてほしいという内容で募ったという。答えた落語家は、最年長、林家木久扇から、若手は桂宮治まで、東西、会派を問わず、老若30名。バラエティーに富んだ回答が寄せられている。
ランキング、円楽の解説、アンケートの回答、隅から隅まで堪能できる。選ばれた演目を見ると、その落語、演者との出会いに、プロといえども、いかに影響されているかが分かる。五街道雲助が語る、師匠十代目金原亭馬生の『らくだ』。人形町末廣の夜トリで、前に出た六代目三遊亭圓生、五代目柳家小さんの熱演にあおられた迫力の高座、というエピソードなんかぞくぞくする。
また、円楽の解説がいい。知的だしバランスがいい。『道具屋』の項でこんなことを書いている。

「演者の手を離れて一人歩きする与太郎が出来るようになったら、どんなカタチであれ、凄い噺家だと思います。馬鹿のままで演っている演者は、与太郎の哲学が無いですから、芸が無いか落語を知らない演者です。与太郎は、世間を超越していますよ。」

大学の頃、当時楽太郎と言っていた円楽の『道具屋』を聴いて、瞠目したことを思い出したよ。知的な与太郎という地平を切り開いたのは、この人だったのだ。「ドシーン、ぶつかって右」が懐かしい。

ただ、演目ごとに「噺家三十人衆の推薦演者」が載っているのだけれど、三遊亭圓生と立川談志がやたら多い。何でだろう、と思って巻末のアンケートを見てみると、立川志の輔が「圓生百席」と「談志百席」の演目をどさっと挙げているんだな。そりゃ、そうなるよ。でも、それってどうかと思う。
また、アンケートが反映されているのか、首をかしげたくなるものもある。『素人鰻』の項では、推薦演者が、「春風亭小朝、三遊亭圓生、立川談志」としてあった。アンケートを見ても小朝の名前は見当たらず、圓生、談志は、志の輔が「百席」で挙げているだけ。八代目桂文楽は、当代桂文治と古今亭文菊の2名が挙げているのに選ばれていない。これはおかしい。黒門町ファンとして、断固抗議する。
その他にも校正で甘い所が散見されるのは、面白い本なだけに惜しい。こういう本はそれぞれの思い入れがあるから、点が辛くなるのは仕様がないと思うけど、志は良しとしよう。
何より円楽の、落語に対する真っ当な姿勢を知ることができてよかった。もっと評価されていい人だと思う。私としてはこの人を、地方のホールより寄席の高座で観たいなあ。

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