私は大学の時、落研にいた。今から30年以上も前の話だ。
随分昔のことだが、私にとっては濃密な日々だった。その頃の話を新シリーズで始めようと思う。(もちろん大福さんのブログの影響は大である。)
あの頃は私も未熟だったし、とても人様に言えないようなことをした覚えもある。あまり関係する人に迷惑のかからない範囲で、時系列にもこだわらず、気楽にぽつりぽつりと書いていくつもりだ。
まずは入部の日から。
同輩は通算で13人いたが、その中で私は入部順では8番目だった。新入生勧誘期間も過ぎた4月も半ば、直接部室に行って入部を願い出たのだった。
中学の時に落語を知り、ずっと好きだった。中学卒業の時の謝恩会では『寿限無』を演って喝采を博した。
もちろん大学では落研に入りたい気持ちもあったが、勧誘期間では声も掛けてもらえなかった。一度、サイクリングの愛好会に誘われて入ったものの、自転車を買わなければならないと言われてすぐ辞めた。ここで落研に入らなければ、一生後悔することになる、と悲壮な決意を持って部室のドアを叩いたのだった。
部室には何人かの先輩がいて、親切に説明してくれた。部員名簿に名前を書くと、先輩は優しく言った。「髪はスポーツ刈りにしてもらうよ。」
そう、当時、男子新入部員は短髪にするという決まりがあったのだ。ちょっと抵抗はあったが、中学の時は丸刈りだったのだ。それに特別な感じがしていいじゃないか。などと思っているところへ、短髪にした1年の男子部員が5人(このうち2人はすぐ辞めた)、女子部員が2人、暗い顔をして部室に入ってきた。後で聞いた話では、向かいにある和室で諸注意(いわゆる説教)を受けていたということだった。
帰りは、代表の雀窓さんの下宿に飲みに連れて行ってもらうことになった。同輩の男3人も一緒だった。
雀窓さんの下宿は狛江にあった。途中、鯖の缶詰や魚肉ソーセージなんかを買い込む。雀窓さんは普通の家の一間を借りていた。まずはビールで乾杯。日本酒にも手を出し始める。私を含め新入生4人、酒を飲むのは初めてに近い。すぐに愉快になった。雀窓さんが「この家にはもう一人下宿人がいて、こいつがなかなか気難しいんだ。少し静かにしろよ。」言うと、我々は「大丈夫ですよ。矢でも鉄砲でも持ってこいってんだ。」と気炎を上げた。
大分夜も更けて、私は同輩の1人とトイレに行った。私が用を足していると、ドアの向こうでぼそぼそと声が聞こえた。「…何時だと思っているんだ。いい加減にしろ。」
同輩の怯えた声で「はい」という返事がかすかに聞こえる。二人の会話が終わるのを待って、私はトイレを出た。
「お前、何で早く出てこないんだよ。」同輩が言った。「あいつ、日本刀持ってたんだぞ。」
矢だの鉄砲だのとは誰かが言ったが、日本刀は言っていない。雀窓さんの話では、その人は他の大学で事務の仕事をしており、日本刀の収集が趣味だという。
落研入部1日目、波乱の幕開けであった。
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