ページビューの合計

2014年9月17日水曜日

風柳の根多帳⑧

『芝浜』の話の続き。
本番は、今はなき新宿山野ホール。山野愛子美容室が経営するホールで、小田急線の線路沿いにあった。
補導出演は浮世亭写楽(現九代目三笑亭可楽)師匠。(三笑亭夢楽師匠は所用で出演いただけなかった。)
落語だけ9席続く番組だ。学生の落語をそれだけ聴かされるのだから、お客も相当覚悟がいる。だからこそ演者一人一人も、精一杯噺を仕上げてくるのだ。
写楽師匠の『町内の若い衆』の後、いよいよトリの私の出番だ。
桂文楽に倣って、人を扇子で掌に三回書いて飲み込む。出囃子は「中の舞」。歩き出すのが、ちょっと早かったが、三味線の浜田よし子さんが上手く合わせてくれた。
「いよいよ私で最後です。ここまで残ってくださったのは、よっぽど落語が好きな人か、私の身内か、どちらかだと思いますが。」と喋り出すと、ふっと空気が和んだような気がした。いいお客だ、私はそう思った。

さて、『芝浜』のマクラだが。
三木助は「曙や白魚のしろきこと一寸」という芭蕉の句(三木助は「翁の句」と呼んだ)を引いて、隅田川で白魚が採れたという情景を描き、粋と気障のぎりぎりの線を突く。談志は、『芝浜』の女房が、果たしていい女房なのか、疑問を呈しながら噺に入る。志ん朝は三道楽の話題から、魚屋が仕事を休むまでの過程を丁寧に語り込む。小三治は、唐突に「ちょいとお前さん、起きとくれよ」と本題に入ってゆく。四人ともそれぞれに個性が出ていて面白い。
私も自分なりのマクラを作ってみた。概略はこんな感じ。
「卒業が迫り、仕事の目星もついて、これで人生が決まったようで、何となく暗くなる。後の楽しみはどんな人と結婚するかだな。早く結婚して子どもが欲しい。男の子が生まれたら、落語家にしようかな。「落語養成ギブス」かなんかつけて。毎朝、正座1時間ぐらいさせて。「間が悪い」とか言って引っ叩いたりして。そんな、明るい家庭を、築いていきたいと思っておりますが…。」
昭和の50年代ぐらいから、プロの落語家でも、お決まりのマクラではなく、自分の了見を自分の言葉で喋る人が出てきた。(もちろん立川談志が、その最先端を行っていた。)私もそんな時代の空気に感化されていたのである。

そこから間を取って、「ちょいと、お前さん起きとくれよ」と噺に入る。
この辺りは、小三治の演出を意識したな。あんな風に、すっと噺に入ってみたかったのだ。

今回はここまで。この話は、あと1回ぐらい続きます。




0 件のコメント: