ページビューの合計

2018年11月4日日曜日

鈴本演芸場 10月下席夜の部

鈴本演芸場、10月下席夜の部は、特別企画「喬太郎が語る圓朝作品集」。
次の日が仕事なので、昼席をと考えたのだが、ふと前売り情報を見てみたら、まだ席に空きがある。やはり一番聴きたいのはこれかな、と思い直し、チケットを取った。

開演前に入場。その時点で、あまり客は入っていない。前売りがほとんどだから、皆、急がなくてもいいんだね。
前座は柳家緑助、『つる』。この後すぐ、11月1日に二つ目に昇進したらしい。
二つ目、柳家小太郎は『ん廻し』。さん喬門下。元気がいいね。かくし芸のくだりで手品をやってた。昔、落研の後輩、松風亭風°鈴(ぷりん)さんが、確か『松竹梅』で手品を入れてたと思ったな、ふと思い出したよ。
ここから真打。柳家小八。先年亡くなった喜多八の弟子だった。二つ目の「ろべえ」の頃に聴いたことがある。喜多八の思い出話が楽しい。喜多八の死後、小三治門下に入った。東京農工大で物理学を専攻したと聞いて、小三治が「物理を落語に生かせ」と言ったという。「どうやって生かせばいいんだ」と言いつつ、『千早振る』に入っていく。「竜田川」を相撲取りではなく川の名前だ、という所で、客席は「ん?」となる。ここから、見事に物理学を生かした『千早振る』が展開されるのだが、ネタバレになるといけないので、詳細は省く。ヒントは「ニュートリノ」、「カミオカンデ」でしょうか。客席は大ウケでありました。
林家しん平は漫談。お腹をこわしているとのこと。焼き肉屋のネタで爆笑を誘う。
お次は三味線漫談、林家あずみ。たい平一門。開口一番、「しん平師匠が『座布団にうんこがついてるかもしれないよ』と言われましたが、高座返しをしていただいたので、私は大丈夫。うんこが付くとすれば、次の百栄師匠です」と言って客をつかむ。喋りが面白い。最後に美輪明宏とレベッカのnokkoの物まねで音曲をやる。この人、売れると思うよ。
そして春風亭百栄、登場。相変わらずあやしい。喬太郎作の新作。猫の縄張り争いの話。喬太郎ワールドと百栄ワールドのコラボレーションか。自分の世界を持っている人は、強い。
中トリは古今亭文菊。端正な高座。写真で見る若き日の八代目桂文楽に似ているな、と思っていたら、何と黒門町ネタ『馬のす』に入っていく。いやあ、たっぷりと間を取って、聴かせる噺にしたなあ。もっと軽く演っていいネタだとは思うけど。でも、上手い。さすが。
ここで中入り。もはや満席、立ち見も出ている。トイレにも行列ができた。
クイツキは漫才のすず風にゃん子・金魚。金魚ちゃん、ハロウィンバージョンの髪型だといって、身長の3分の1ぐらいの飾り物をつけていた。後半は延々とゴリラのモノマネ。すげえなあ、とても後期高齢者には見えない。
春風亭一朝、『芝居の喧嘩』。ベテランの味。抜群の安定感。こういう人が出ると、高座が締まる。
膝代わりは林家楽一の紙切り。注文に「スーパーカミオカンデ」が出る。
そしてお待ちかね。トリの柳家喬太郎が高座に上がる。
この芝居は10日間ネタ出し。これが壮観。『錦の舞衣(上・下)』、『指物師名人長次~仏壇叩き~』、『怪談牡丹灯籠~お富新三郎~』、『怪談牡丹灯籠~お札はがし~』、『怪談牡丹灯籠~栗橋宿~』、『死神』、『文七元結』、『真景累ヶ淵~宗悦殺し~』、『縁切榎』。10日通った人もいるだろう。私には金も時間もないや。
この日は楽日。珍品の『縁切榎』。「今日は人も死にませんし、しみじみする人情もありません」と喬太郎。リラックスムードでマクラが続く。三遊亭白鳥が圓朝直系という話題になって、「白鳥さんを知らない人手を挙げてもらえます?」と喬太郎が客に振る。誰も手を挙げない。「えー、そうなの? 知らない人いないの? どうかしてるよ」と驚愕していた。誰もが少しは知らない人がいると思っていたんじゃないかな。すげえな。改めて、ここにけっこうコアな落語ファンが集ったのだと気づかされた。
時は明治初頭、若様が芸者と武家のお嬢様と同時に深い仲になり、どちらを選ぶかに苦悶するという噺。圓朝らしからぬドタバタ喜劇。現在やり手がいないということは、噺自体が面白くないということなのだろうが、これがまた、どっかんどっかんウケる。多少言い間違いはあるが、それを笑いに変える対応力はさすが。何より、いい加減な若様と、女二人の描写が見事。芸者の色気、潔さ、かわいらしさ、武家の娘の可憐ないじらしさ、女たちが立派に現代(いま)に生きている。やっぱり喬太郎は上手いねえ。気づくと女性の一人客が多い。彼女たちの心に喬太郎の落語は響くんだろうな。
充実の40分。こうなると、『怪談牡丹灯籠』や『真景累ヶ淵』も聴きたかったなあ。今の落語ファンのど真ん中にいるような感覚を体験できました。

余談だが、私は、この鈴本演芸場で、林家たい平と柳家喬太郎の真打披露興行を観ている。この時はたい平がトリで『紙屑屋』、喬太郎が自作の『午後の保健室』を演じた。たい平のサービス精神と、喬太郎の奇抜な発想、確かな人物描写に、私は、彼らがこれからの落語界を背負っていく逸材であることを確信した。
あれから18年、その柳家喬太郎が圓朝作品を語る特別興行で鈴本を10日間いっぱいにしたんだなあ。そう思うと感慨深い。


0 件のコメント: