午後から冷たい雨。
夕食はナシゴレン。
もうひとつ思い出話を。
この文楽の代名詞ともいえる噺を初めて聴いたのは、中学3年の時だった。
NHKだったかTBSだったか、ある時テレビで放映されたのだ。
私はラジカセで録音の準備をして放送を待った。
映像は昭和46年3月のもの。文楽の最晩年の口演であった。
後から聴けば、悲しいほどろれつも回らず、とちりも多い。
全盛期とはほど遠い出来だったと思う。
それでも私は魅了された。
枕の牛鍋の何と旨そうなこと。
源兵衛と多助の温度差のおかしさ。
若旦那時次郎の初々しさ。
「お稲荷さんのお籠もり」と騙されて吉原に連れてこられた時次郎が、駄々をこねた末、浦里花魁と一夜をともにした翌朝。
「花魁は口でばかり起きろ起きろと言ってますが、あたしの手をぐっとおさいて・・・」
中学3年生の私でも、その時、この78歳の老人に匂い立つ色気を感じたのだ。
そして、絶品の甘納豆の仕草。(その昔、文楽が「明烏」を演った後は、売店の甘納豆が飛ぶように売れたという)
この時録音した「明烏」のテープは、それこそ大事に大事に何度も聴いた。
同級生のE君に聴かせると、彼も感動していた。
彼が家に遊びに来ると、いつも母親の煮た大根を食べながら、二人で「明烏」を聴いたものだった。
今思うと、二人とも変な中学生だったよなあ。
0 件のコメント:
コメントを投稿