この前の稽古では『風呂敷』をかけた。初演である。学生の頃、古今亭志ん朝のをよく聴いた。
『風呂敷』は古今亭のお家芸。志ん生の十八番だった。「だって寒いんだもの」とか「シャツの三つ目のボタン」とか「船を見送るような声」とか、楽しいフレーズが満載だ。志ん朝も、ほぼ父の演出を踏襲し、客をひっくり返して笑わせた。
今回、噺を覚えるのに、ネットで検索した。いやあ便利な世の中になったなあ。志ん朝の新宿末広亭の高座をYouTubeで見ることができた。30代後半か40代にかけての志ん朝。若いな。リズム、テンポ、勢い、まさに完璧。私たちが学生時代酔った志ん朝がそこにいた。
ただ、今の時代には共感を得られないだろうな、という演出もあった。例えば、「女三界に家なし」や「お前は文句を言わないでおれの用をしていればいいんだ」というようなところ。落語は確かに「男のつぶやき」なのだが、あまりに男の身勝手さが目立つ。男女の関係の非対称さが浮き彫りにされる。というか、あんなに一方的に女房を罵倒する男を、私には演じられない。
それから、「瓜田に履を納れず李下に冠を正さず」をもじったギャグも理解してもらうのは難しいだろうなあ。
そんなことを考えながら演ってみた。調子は志ん朝が体に染みついているが、言葉は大分違うものに出来上がった。多分、爆笑ものにはならないと思う。
それでも、演っていて楽しい。登場人物が、皆、好きなんだよなあ。知ったかぶりの兄いも、そのおかみさんもかわいい。相談にきたおかみさんも押し入れの前でくだをまく亭主もかわいい。何なら押し入れに入っている若い者もかわいい。
お仲間に「前と違って、軽く楽しんで演っているような気がする」みたいなことを後で言われて、うれしかったな。お客の前でどうできるか、分かんないけど。
今日は、長崎に原子爆弾が投下された日。
既に『黒い雨』は読了した。
広島から長崎まで、本当に何日でもなかったのだな。
こんなになるまで戦争を継続させ、本気で上陸してくる米兵に竹槍で立ち向かわせようとしたんだよな、大日本帝国は。それは覚えておく。
それと、大国アメリカの非情さも。
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