ページビューの合計

2026年7月23日木曜日

私の芸名遍歴

私には本名の他に、もうひとつ名前がある。

落語を演る時に使う名前だ。今時は「高座名」というらしいが、私が落研にいた頃は「芸名」と呼んでいた。

私が古典落語を覚えて演るようになったのは、中学の時だ。中学卒業の謝恩会の時は「寿限無」を演った。その頃、芸名も考えた。「野良家耕安(のらや・たがやす)」という。まあ自分の出自が農民だということを自覚していたんだろうな。

大学に入って落語研究会に入部すると、芸名をもらえる。

初めての芸名が「楽家伝助(たのしや・でんすけ)」。初めての芸名は、一門の真打がつける。楽家は松風亭門下にあり、当時の真打は二代目松風亭紫雀(しょうふうてい・しじゃく)さんだった。『ビッグコミックオリジナル』で連載中の「釣りバカ日誌」の主人公から取ったという。

落研では、本名か芸名で呼ばれる。私は、ずっと「伝助」と呼ばれ、本名で呼ばれたことがない。それだけ、愛着の深い名前であった。

3年の夏合宿で真打に昇進した。その時に、私は、三代目松風亭風柳(しょうふうてい・ふうりゅう)を襲名した。

初代は、今でも社会人落語家として活躍中の、たちばな家半志楼さん。私が聴いた先輩の中では、この方と、二代目松竹亭金瓶梅(しょうちくてい・きんぺいばい)で、現在の鶯春亭梅朝(おうしゅんてい・ばいちょう)さんが双璧だと思う。

二代目は今も地元長野県で、水道家関ちゃん(すいどうや・せきちゃん)という名前で落語を続けていらっしゃる。

私も今、高座に上がっている。風柳三代、そろって今も落語を演じ続けているということになる。そういう芸名なのだろう。

私は卒業後、しばらく落語から遠ざかっていたが、2019年4月から、鶯春亭梅八(おうしゅんてい・うめはち)さんが主宰する、福の家一門で落語を始めた(梅八さんは、大学の先輩。現役時代は三代目松竹亭金瓶梅だった)。芸名は「福の家伝助」を名乗った。やはり「伝助」に愛着があったのだ。

半年ほど経つと、梅八さんから、「いつまでも伝助じゃないだろ。別の名前を考えろ」と言われた。そして、こうも言われた。

「お前、風柳を使いたいんだろ? でもな、落研の真打名は卒業の時にクラブに返したんだ。真打名は現役のものだよ。後輩がいつでも継げるようにしておかなきゃな」

なるほど、皆さん卒業してから落語を演る時には名前を変えていらっしゃる。そういう事情があったのか。そして、私はその考えに得心した。やっぱりうちの落研はきちんとしている、と誇りに思えた。

以前、小月庵という蕎麦屋で「粋蕎」という蕎麦焼酎を見かけた。私はそれを「すいきょう」と読んだ(正しくは「いっきょう」と読む)。それ以来「すいきょう」という名前はいいな、と思っていた。「粋」の字を使うのは粋ではない。「すい」は自分が酒好きでもあり「酔」の字を当てるのがいいだろう。これに、名人橘家圓喬の「喬」を合わせて「酔喬」。うちの落研にある小酒家の真打名にぴったりじゃないか。

梅八さんから言われて、まず浮かんだのがこの名前であった。

これだけででは、と思い、もうひとつ、「霞風(かふう)」というのを考えた。「風」を使いたかったのと、「荷風」に通じていていいかな、と思ったのである。

稽古の時、梅八さんにこの二つを見せた。梅八さんはためらいなく「酔喬にしろ」とおっしゃった。

こうして私は「福の家酔喬」となったのである。

6 件のコメント:

moonpapa さんのコメント...

芸名に関するエピソード、興味深く読ませていただきました。大学時代の落研においても代々継いでゆく名誉ある名前があるそうですね。たしか明治大の落研は紫紺亭志い朝という大きな名前を三宅裕司さん・立川志の輔さん・渡辺正行さんが継いだとか…。日乗さんの時代は亭号もいくつかあってそれぞれにちょっとした特徴などもあったのでしょうか?プロの噺家さんは一門への思い入れやこだわりなどいろいろあるかと思いますが…。ちょっと話は変わりますが、自分の子供に名前をつけたときを思い出しました。自分の想いも込めたいけど、それが重すぎてもとか、いろいろ考えたり…。「粋蕎」と「霞風」、どちらもカッコイイな。でも「粋蕎」のほうが愛嬌がありそうです。あっ、ちょっとお酒がはいってまして勝手なコメントでスミマセン。
 追記 隅田の花火の日に「たがや」でしたか。私もテレビを観ながら「たがや」って落語があるんだよと連れと話をしてました。 

densuke さんのコメント...

moonpapaさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
うちの落研には、松風亭・楽家、松竹亭・小酒家、夢三亭・月見家の3つの一門がありました。松竹亭は男のみ、団結力が強く、裸芸を厭わず。夢三亭は女子が多く、ほんわかした雰囲気。松風亭は落語好きが多い。ざっくり言うとそんな特徴がありましたね。
「霞風」は、後から考えると、落語というより講談が似合う名前でした。ちなみに稽古場近くのセレモニーホールの名前でもあります。

moonpapa さんのコメント...

いかした名前のセレモニーホールがあるんですねぇ。粋であったり、洒落が効いていたり…噺家さんの亭号はじつにどうも風流でけっこうなものです。じつは今日何となくアタマをからっぽにしたくて浅草演芸ホールにいってきまして。林家つる子さんが主任の明るく楽しい林家芝居を楽しんできました。印象に残ったのは春風亭一之輔/真田小僧(人気者の貫禄十分)、林家ぺー/ホルムズ海峡冬景色(寄席でないと聴けない?)、ロケット団/漫才(笑い過ぎて涙目)、翁家勝丸・丸果/曲芸(すっかりコンビが板についてきた)、林家あずみ/三味線漫談(のどちんこの唄)などなど。トリのつる子さんは「片棒」の一席にかっぽれのオマケ付きでした。あっ、そうそう、一朝師匠が「たがや」を演ってくれました。開口一番からほぼ満席で二階もいっぱいになったようなにぎやかな昼席でした。
動画のアップ楽しみにしています。暑さもこれからが本番でしょうからどうぞご自愛ください。

densuke さんのコメント...

浅草演芸ホール、いいですねえ。あそこの気取りのない雰囲気、大好きです。
つる子は、確か二つ目になった頃、池袋で聴いたことがあります。『皿屋敷』を演ったと記憶していますが、ものの見方が面白い人だな、と思いました。すっかり売れっ子になって、大きくなりましたねえ。寄席に行きたくなっちゃったな。
今日は猛暑の中休みなのか、涼しい風が吹いて過ごしやすい一日でした。こういう日に東京の街を歩きたいものですなあ。

moonpapa さんのコメント...

ぜひ、またご一緒させてください。🙇

densuke さんのコメント...

こちらこそよろしくお願いします。