落研時代、一度だけ高座にかけて、それっきりになってしまった噺がいくつかある。
そのうちのひとつが『小言念仏』だ。
私たちの年代では、何と言っても柳家小三治にとどめをさす。
私自身、あの放送演芸大賞受賞の高座以来、何度も何度も小三治の『小言念仏』を聴いた。いつもひっくり返って笑った。
そうなると、自分でもやってみたくなるではありませんか。
やりましたよ、私も。覚えるのは簡単だったな。覚えてすぐ、ゼミのコンパでやってみた。これが惨敗。ゼミで落語をやると、だいたいはバカ受けするのだが、その時はびくともしなかった。
でも、今にして思う。それも当然だ。『小言念仏』は全編、一人語りの落語だ。たったひとりの台詞で情景を描かなければならない。しかもその唯一の登場人物も老人であろう。とても21歳の若造が手を出せるシロモノではない。
それ以後、私の持ちネタからは封印した。怖くて怖くて、とても人前ではやれなかった。
その『小言念仏』を、最近やってみた。私も60歳を過ぎたし、そろそろやってみてもいいだろう、と思ったのだ。
さらってみると、40年振りだが、台詞は体に入っていた。
もう小三治の噺が体に染みついているから、どうしても、あのテンポになってしまう。私には小三治のようなフラがないので、面白くならないのではないか、という危惧はあったのだが、とりあえず稽古に出す。目の前にマッチ棒が突っ込まれたお線香立てや、這ってくる赤ん坊などを眼前に浮かべながら、あまり力を入れずやってみた。新聞を読むくだりを遊びで入れてみる。仲間の反応は悪くない。
本番、演者の都合で私が二席やることになり、最初に予定になかった『小言念仏』をかけることになった。陰陽のマクラでは、陽で「栄冠は君に輝く」を、陰で「チューリップのアップリケ」を歌う。お客様はよく聴いて下さったな。軽く気持ちよく演じることができた。こういうネタをやれると、噺に幅ができる。色んな所でやってみたいなあ。
私の若い頃、『小言念仏』は寄席では小三治の独壇場だったが、やる人も出てきたね。亡くなった小三治の弟子、喜多八のも楽しかった。小三治とはテンポを変えていた。幾分早めだったな。古今亭寿輔のは皮肉っぽいキャラがよく合って面白かった。客席もバカ受けだったよ。
それにしても、小三治はあのシブい噺を30代にして得意ネタにしていたんだから、本当にすごい人だったんだなあ。
2 件のコメント:
若隆景の下りが‥!(笑)
小言を言ってるのが爺ちゃんで、それが見ていて「ハイハイまたなんかぶつくさ言ってるよ可愛いな」と思えるとくすっと笑えてくるから、若い人がやるとだいぶ印象が違うかも。爺ちゃんがやった方がいいなこういう落語。いや決してdensukeさんが爺ちゃんだと言ってるわけでは‥(💦)
「ドジョウ屋入れるんですか?」って素で聞いてるおかみさんが自然に頭に浮かんできて。いいご夫婦なんだなって思って笑いが止まりませんでした。
面白く聴いていただけたら、うれしいです。
60過ぎているので、立派なじいさんですよ。
「新聞」の所では、色々遊んでみようかな、と思っています。
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