この前まで宇能鴻一郎の『アルマジロの手』を読んでいた。
宇能は福岡の名門、修猷館高校から東大に進んだ。これは、私の大学の恩師、H先生と同じコース。確認したらともに1934年生まれ。先生は1月生まれだから、学校では1級上か。さすがに面識はあったろう。でも、学生時代、そんな話は聞かなかったなあ。
当時、宇能は川上宗薫と並ぶ売れっ子のポルノ作家だった。夕刊紙の「真ん中あたりのやらしいページ」(なぎらけんいち「ラブユー東京スポーツ」より)には、この二人のどちらかが連載を持っていた。両者とも出発は純文学から。特に宇能は「鯨神」で第46回芥川賞を受賞している。近年、純文学時代の作品が文庫化されて評判となった。『アルマジロの手』は、その最新刊である。
大きなテーマは「性」と「食」か。「生」に対する過剰なまでの熱量を感じる。そして、過剰な「生」は「死」に近づく。「性と食」、「生と死」とが激しく交錯する世界。「性」の味つけの濃さは宇能の持ち味だが、食材も、モツ、鮟鱇、鰻など脂にまみれている。宇能の言葉に食らいつき、しゃぶり尽くす快感。甘美な破滅にひた走る恐怖。凄いものを読まされてしまったなあ。
H先生にしてみれば、宇能鴻一郎は同郷の後輩でありながら、芥川賞作家にして長者番付に載るポルノ作家。何らかの屈折した思いはあったのかもしれないな。
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