神田連雀亭の日替わり寄席、昼席。落語が三席、浪曲が一席で、公演時間は1時間半。料金は1,000円。
出演するのは、二つ目か、それに相当するキャリアの芸人たちである。協会の垣根はほとんどない。もともとは古今亭志ん輔のプロデュースで開設されたという。その後、志ん輔が手を引き、ビルオーナーの席亭と、会員の芸人たちによる委員会とで運営されているらしい。
入ると、50人も入れないような小じんまりとした空間。客席数は38だという。演者との距離が近く、声もマイクなしで隅々にまで届くだろう。
「客は少ないですよ。平日は”ツ離れ”(10人以上客が入ること)しません。今日は休みなので、いつもより多いと思います」とmoonpapaさんが言う。
なるほど、空席はあるが15、6人の客が入った。(この後、出る演者が口をそろえて「今日の入りはすごいんですよ」と言っていた。)
さあ、二番太鼓が入り、いよいよ開演である。
トップバッターは、落語協会所属、入舟辰乃助。入船亭扇辰門下。来年三月の真打昇進が決まっているとのこと。安定した語り口。枕で、自分の会に柳家権太楼に出演を依頼したエピソードを、権太楼の物真似を交えつつ語り、笑いを誘う。
ネタは『そば清』。つゆを蕎麦猪口に注ぎ、薬味を入れる。派手な音を立てて蕎麦をすすり、食べ終えると、湯桶から蕎麦湯を注ぐ。さすが柳家の系譜、仕草が細かく丁寧だ。蕎麦をすする音で、「スモーク・オン・ザ・ウォーター」をやってみせる遊びもある。
サゲは本来のものにちょい足し。粋よりも分かりやすさを選んだか。それも選択のひとつだと思う。
お次は立川流、立川志らぴー。志らく門下。2023年、二つ目昇進。山形大学人文学部卒業。山形の県立図書館で昭和の名人のCDを借りて落語にはまったという。HPを見ると、文章や俳句も載っていて、なかなかに巧い。文芸寄りの人なのかな。好きなミュージシャンのリストの中に、三上寛と友川カズキが入っている。歳は若いのに、目の付け所がいいねえ。
ネタは『牛ほめ』。昭和の名人を聴き込んでいるからか、口跡がいい。立川流の独特の口調が希薄なんだ。特にとんがった解釈もなく、噺に正面から向き合っている感じ。ただ、手の動きとか、何気ない所作が、ちょっとこなれていないかな。枕で、「今週は4回連雀亭に出ている」と言っていた。定席への出演がない立川流にとって、高座に上がる機会の確保は大事だ。貪欲に高座に上がってほしい。
ここで浪曲が入る。港家小はる。ネタは、小はる自作の『八千代座誕生と復興の物語 わさもん』。彼女の故郷、熊本県山鹿市にある、かつて「お化け屋敷」と言われた劇場を、市民たちが蘇らせた物語である。自由民権運動を勉強しているというだけあって、郷土を愛し、郷土の誇りを取り戻す民衆のパワーを、熱く歌い上げる。熱量が高いなあ。語りの部分がもう少し整理されると、よりストーリーが伝わりやすくなると思う。
トリは、芸術協会所属、桂松福。桂米福門下。米福は、新作落語のプリンス、桂米丸の弟子でありながら、古典落語を得意にしてきた。
松福の二つ目昇進は2023年。二つ目昇進は志らぴーと同年だが、入門は2019年で2年ほど遅い。枕で「前の二人の方が先輩ですから」と言っていた。本当は、サラに出た辰乃助がトリだったのだが、用事があるということで、急遽、松福がトリになったという。
幾分、あたふたしながら、トリネタ『禁酒番屋』に入る。素人口調、仕草も甘い。
水カステラ、油のくだりで、「こな、偽り者め!」というセリフが出なかったので、サゲの「こな正直者め!」が弱くなった。一升徳利が一升瓶に見えた。番屋の侍の酔いのボルテージが上がっていく過程がもうひとつ。穴は確かに多い。
しかし、しっかりと丁寧に演じている。好感の持てる高座だ。フラもあって面白かった。きちんと笑いも取っていたよ。
出演順に噺の完成度が低くなっていくという、番組の構成上、好ましいものではなくなったか。本人もそれを自覚していたようだが、高座で客前で演るに勝る稽古はない。精進を続けてもらいたい。
それに、お客がいいんだよな。よく聴いて、笑いどころではきちんと笑う。若い芸人たちを、しっかり見守り、支えている。席亭さんも大変だろうが、頑張ってもらいたいなあ。落語愛あふれる空間。いい時間を過ごせました。
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