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2009年8月21日金曜日

夏目漱石『草枕』

『草枕』。漱石初期の名作である。
非人情を志向する画工が山中の温泉宿に滞在し、そこで一人の美しい女と知り合う。
女は宿の出戻り娘、那美。彼女と画工との交流を中心に話は進む。
しかし、この小説、ストーリーはさほど重要ではない。
それは単に設定に過ぎず、漱石の東西の比較文化論・芸術論が、画工の口を通し存分に展開される。
西洋の芸術が、あくまで関係性・愛憎といった人と人の情との関わりの中で生まれるのに対し、中国に代表される東洋の芸術は、人の世にありながら人の情を超越したところに生命がある。それが画工の憧れる非人情の境地である。
それにしても絢爛たる文章だな。漱石は『草枕』執筆に際し、『楚辞』を読み返したというが、そこで駆使される漢語の美しさといったらない。
初めて読んだのは高校の時だが、当時は何だか分からなかったなあ。
この文章の凄さが分かったような気がしたのは、30歳を過ぎてからだった。
今読み返すと、けっこう色っぽい場面が多い。
画工と那美との混浴シーンは有名だ。その他にも、夜中に那美が就寝中の画工の部屋に入ってくる出会いの場面。那美が振り袖を着て画工の目前を行き来する場面。那美と元夫とのやりとりを画工が盗み見る場面。どれも色っぽい。
確かに、妖艶ではある。だが、そこに性的な匂いはない。
二人の会話も、お互いに好意は認められるものの、恋情に向かう気配はない。
画工にとって那美は肉体を持った生身の女というより、一個の美術品・鑑賞物であるかのようだ。
山中の温泉宿で美女と知り合うという点では、川端康成の『雪国』も同じ作りだ。
ということは、『雪国』は『草枕』のオマージュであったか。
『雪国』の島村は、駒子と肉の交わりは持つが情の交わりを持とうとはしない。もしかしたら、これも川端なりの非人情なのかもしれない。

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