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2009年7月8日水曜日

谷口ジロー『冬の動物園』

年を取ると、新しいものを開拓する意欲がなくなってくる。
信用のおける作家の作品を追っていくだけで、けっこう手一杯になってくるものだ。
マンガ家の谷口ジローは、私にとってそんな信用のおける作り手の一人である。
元々絵の上手い人だったが、『犬を飼う』『坊ちゃんの時代』辺りから名人の域に達したような気がする。絵に山っ気が抜けて、枯淡の趣が出てきた。それでいて、細部まで一切おろそかにしない描写力がある。一つ一つのエピソードを丹念に積み上げ、人の心を打つストーリーも健在だ。『遙かな町へ』といった大作はもちろん、『歩く人』、『孤独のグルメ』などの小品も素晴らしい。
そして最新作、『冬の動物園』。谷口ジローの自伝的連作である。
時は昭和40年代。京都の織物問屋に勤めていた若者が、東京に出てマンガ家のアシスタントになり、デビュー作を書き上げるまでの話だ。何者かになろうとしてもがく主人公、浜口の姿が、甘酸っぱく胸に迫る。
脇役陣も多彩だ。織物問屋の社長の娘、綾子。故郷鳥取の友人、田村。マンガ家、近藤。アシスタントの森脇、藤田。(古株のアシスタント森脇の屈折具合が、また切ない。)編集の東野。浜口の10歳年上の兄。近藤の友人で無頼のイラストレーター、菊地。浜口とデビュー作のストーリーを考える病気の美少女、茉莉子。
特に浜口と茉莉子のラブストーリーはいい。茉莉子の可憐で、それでいて大人びた佇まい。茉莉子のためにひたむきにマンガに立ち向かう浜口。二人だけにしか出来ない物語が紡ぎ出される。思わず鼻がつんとなる。
私はこの本を宮脇書店で買った後、ドドールでコーヒーを飲みながら読んだのだが、涙がこみ上げてきて困った、困った。
多分、この後も話は続くんじゃないかな。続くといいなと思います。

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