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2019年8月12日月曜日

おれの、『締め込み』

ちょっと前、鶯春亭梅八さんが主宰する寄席で、『締め込み』をやってきた。

このネタは学生時代、八代目桂文楽に憧れてやったものだ。
何と言っても黒門町との出会いの噺である。思い入れは強かった。

2008年12月7日の記事

しかし、やればやるほど面白くならず、対外発表会で一回かけただけで封印してしまった。
八海君には『芝浜』をやる時に、「『締め込み』みたいに小っちゃくまとまって、つまらなくなるんじゃないか?」と危惧されたほどだ。
でも、この噺はずっと好きだった。最近、また落語を喋り始めて、いつか機会があれば挑戦してみようと思っていたのだった。
学生時代失敗したのは、桂文楽の型をそのままやっていたということだ。それでは私がやる意味はない。しかも、「でこでこに火を起こして」とか、「前尻」とか、自分の言葉になっていない言葉を使ったって、お客伝わるはずもない。

2013年1月22日の記事

今回、噺を再構築してみた。
基本的には学生の時覚えた文楽の型を踏襲。加えて、古今亭志ん朝の口演を参考にする。文楽はいきなり「こんにちはー」と声を掛けるが、志ん朝の方には導入部で間抜け泥のくだりが入る。私はこれから空き巣をするということを独白で説明しながら噺に入った。文楽だからいきなり家に入るところからでも説得力を持つのである。私の場合、やはり説明的な言葉が必要になる。(だからといって、ここで私が間抜け泥をやれば、冗長になってしまうだろう。)
文楽も志ん朝も、その噺はサゲまでやっていない。泥棒が「これからちょくちょくうかがいます」言うのに対し、亭主が「冗談言っちゃいけねえ」と返すところで下りている。文楽も志ん朝も、ここでわっと受けるから切ることができる。私の腕では最後までやった方がお客が納得できるのではないかと考え、サゲまでやることにした。
亭主と泥棒が酒を飲むプロセス、本来は亭主の方から「厄落としで一杯やろうじゃねえか」と誘うのだが、泥棒の方から「おかみさんがお酒の用意ができていると言ってましたが、どうです? お祝いに一杯やりませんか?」と持ち掛けることにした。
その後、泥棒が酔っ払うにつれて、亭主と女房の馴れ初めをいじり出す。やってて楽しかったな。きちんと泥棒を主役にできたと思う。
亭主の八五郎は「気持ちがまっすぐで思い込んだら突っ走ってしまう人」、女房のお福は「そんな八五郎に惚れているが、自分の言いたいことはきちんと言える人」、泥棒は「調子のいい善人」という解釈で、噺の中で自由に暴れてもらった。
志ん朝は女房のおみつが馴れ初めについて言い立てる場面で、八五郎がどじで、一人でしくじっては皆にいじめられているのがかわいそうだから優しくしたところ、自分に気があると思い込んだ、ということにしている。
私は八五郎を「腕のいい職人」にした。お福の父親が「あいつはあんな乱暴な奴だが、腕はいいし気性もまっすぐだ。お父っつあんはいいと思うが、大事なのはお前の気持ちだ。お前はどうなんだ?」と言ったということにする。そのことで、お福が八五郎に惚れることにリアリティーが増すと思ったのである。
目新しいギャグはいらないと思った。本で読んだ、柳家小さんの「人物が出りゃ、噺は面白くなるんだ」という言葉に勇気をもらった。また、啖呵はゆっくりでいい、と教えも参考になった。色んなことを知ったり経験したりして、それを噺の中に生かせるようになったか。年を取るのも悪くない。
客前で演じて、聴いてもらえているという感覚も得たし、ちゃんと笑いも取れた。。やっと、「おれの『締め込み』」ができたかな。噺を作るのが楽しくなってきた。



5 件のコメント:

moonpapa さんのコメント...

「締め込み」思い入れのある噺だったのですね。日乗さんの聴いてみたいですねぇ。この噺、泥棒が縁の下から出てきたところで「あっ、泥棒っ、このやろうっ」とはならずに視点(というのかな)がちょっとずれていって落語らしくなりますよね。そういうのがなんともいいですね。演者にもよるでしょうが、なんかうまく言えませんが夫婦の仲の良さや泥棒の気のよさが前面に出すぎない(笑いというオブラートにくるんで伝わるとでも言いましょうか)ようで。泥棒がいい役回りをするんですね。サゲまでゆく馬石さんの、好きだなぁ。moonpapa

densuke さんのコメント...

『締め込み』を人情噺にしちゃいけませんよね。
馬石の、やたら感動巨編にしない、かといって、無理に笑いを取る「一人コント」にしない、「程の良さ」がいいですね。
私の噺も機会があれば聞いていただきたいものです。
それより前に、そちらの地元で一杯やりたいですね。

moonpapa さんのコメント...

「程の良さ」・・・志ん朝さんもおっしゃっていましたね。家に泥棒が入った悪さを咎めたり、家の中にいるドロの不用心さを脇に置いといてドロさんに感謝してしまう落語らしさがこの噺のステキなところだと感じます。
おたがいに負担のかからない日に、ぜひ、こちらで飲りたいですね。ゆるりとその日を探しましょうか。moonpapa

moonpapa さんのコメント...

smsが調子悪くつながらないので、こちらで。私の都合で申し訳ありませんが、10月か11月の月曜祝日は御都合いかがでしょうか?こちらの近所をぶらりとしてから一杯というのは。moonpapa

densuke さんのコメント...

SMS送ってみましたが、行きましたか?