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2017年8月17日木曜日

演目について CDブック『完全版八代目桂文楽』を聴く②

CDブックに収められた27演目は次のとおりである。

①愛宕山 ( 1954 年 1 月 7 日 : 61 歳 )
②やかん泥 ( 1956 年 3 月 9 日 : 63 歳 )
③景清 ( 1956 年 9 月 16 日 : 63 歳 )
④夢の酒 ( 1956 年 7 月 1 日 : 63 歳 )
⑤穴どろ ( 1956 年 11 月 11 日 : 64 歳 )
⑥富久 ( 1956 年 12 月 25 日 : 64 歳 )
⑦かんしゃく ( 1956 年 7 月 18 日 : 63 歳 )
⑧心眼 ( 1956 年 8 月 13 日 : 63 歳 )
⑨船徳 ( 1956 年 7 月 10 日 : 63 歳 )
⑩つるつる ( 1956 年 10 月 16 日 : 64 歳 )
⑪大仏餅 ( 1966 年 1 月 28 日 : 73 歳 )
⑫明烏 ( 1959 年 6 月 3 日 : 66 歳 )
⑬酢豆腐 ( 1959 年 5 月 25 日 : 66 歳 )
⑭悋気の火の玉 ( 1963 年 5 月 17 日 : 70 歳 )
⑮寝床 ( 1959 年 9 月 16 日 : 66 歳 )
⑯厩火事 ( 1967 年 3 月 14 日 : 74 歳 )
⑰厄払い ( 1960 年 1 月 3 日 : 67 歳 )
⑱素人鰻 ( 1959 年 10 月 28 日 : 66 歳 )
⑲星野屋 ( 1968 年 7 月 19 日 : 75 歳 )
⑳しびん ( 1967 年 5 月 14 日 : 74 歳 )
㉑王子の幇間 ( 1967 年 1 月 4 日 : 74 歳 )
㉒よかちょろ ( 1966 年 4 月 1 日 : 73 歳 )
㉓松山鏡 ( 1966 年 12 月 25 日 : 74 歳 )
㉔鰻の幇間 ( 1967 年 6 月 16 日 : 74 歳 )
㉕締め込み ( 1967 年 10 月 6 日 : 74 歳 )
㉖馬のす ( 1968 年 6 月 16 日 : 75 歳 )
㉗干物箱 ( 1968 年 1 月 28 日 : 75 歳 )

文楽は1962年2月からまる1年かけて、ビクター築地スタジオで『八代目桂文楽十八番集』を録音している。客なしのスタジオ録音盤。文楽全盛期の芸を忠実に記録しようという意欲にあふれたものだった。
このレコードも27演目を収録しているが、CDブックにあって『十八番集』にないのは「星野屋」、逆に『十八番集』にあってCDブックにないのが「按摩の炬燵」である。
なぜ「星野屋」が『十八番集』に収録されなかったかは、CDブックに収められた「星野屋」の口演後の対談から分かる。
文楽は「星野屋」について、司会のアナウンサーの質問に答え、真打になる頃覚えた噺で長いこと高座にかけなかったが久し振りに演ってみた、と答えている。これが1968年。つまり、『十八番集』収録当時、「星野屋」はお蔵になっていたのだ。そして、昔は「真打になるには人情噺めいたものができなくてはならない」という風潮があったので覚えたものだ、と文楽自身言っている。
では、なぜCDブックに「按摩の炬燵」が入っていないのか。これは編集部の「おことわり」という文章の中に答えがあるような気がする。文楽の落語に出てくる、「現代では障害者や職業を侮蔑することば」に対し、「人権上使用してはならない」としながらも、「この時代の中で登場人物たちの人間模様を描く上には、これらのことばの使用を、歴史的事実として認めざるを得ません」とし、それらの言葉が出てくる演目を世に出すことについて、「これら差別や侮蔑の助長や温存を意図するものではない」と理解を求めている。
「按摩の炬燵」は、盲人に酒を飲ませ布団の中に入れて炬燵の代わりにしようとする、(現代の常識からすれば)とんでもない設定の噺である。文楽がラジオの放送で演じた時には、当時でも「あまりに盲人を馬鹿にしている」という抗議が寄せられた。「この時代の中で登場人物たちの人間模様を描く上には、これらのことばの使用を、歴史的事実として認めざるを得」ないとはいえ、言葉以前に内容からして理解を得られるのは無理だと、編集部は判断したのだろう。
しかし、私としては1968年以降も得意にしていたとは言い難い「星野屋」よりは「按摩の炬燵」の方が、文楽の持ちネタを網羅する上では必要だと思うのだが、どうだろう。

文楽の死後、山本益博の監修によってCBSソニーで出した全集では、「星野屋」も「按摩の炬燵」も入っている。「鶴満寺」を入れることに強硬に反対したあの出口一雄が「星野屋」を認めたということは、出口は「星野屋」が水準を満たしていると判断したということか。とすれば、やはり文楽の持ちネタは、以上の28演目とするのが適当なんだろうな。

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