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2020年6月3日水曜日

今野勉『宮沢賢治の真実 修羅を生きた詩人』


宮沢賢治の不穏な文語詩をきっかけに、賢治の謎を追うルポルタージュ。
「賢治の恋」「妹の恋」を縦軸横軸にして、名作『春と修羅』『銀河鉄道の夜』を読み解いていく。
テクストを読み込み、資料を漁り、現地に飛ぶ。貪欲に対象に迫っていく様は迫力満点。テレビのプロデューサーである著者のフットワークはすごい。
いささか一本のストーリーに向かっていく傾向はあるが、豊富な資料に裏付けられた説得力に圧倒される。
「農民のために生涯をささげた聖人」「科学と信仰の融合を目指した哲人」としての賢治、「名作『永訣の朝』や『無声慟哭』を生んだ聖女」としての妹とし子、そんな紋切り型のイメージが吹き飛ぶ。二人とも苦しい恋に身もだえた、生身の人間なんだ。いささかスキャンダラスではあるけれど(賢治は恐らく性的マイノリティであったし、とし子の初恋は新聞の暴露記事となった)、下世話な好奇心に堕すことはない。濃厚な肉の匂いに迷いながらも、二人とも高みを目指してもがいたんだな。その姿は気高く、同時に痛々しくさえある。

触発されて『春と修羅』『銀河鉄道の夜』を読み返した。おかげで読みに深みが加わった。そして、作者の個人的な状況を超えた、普遍的な美しさがそこにあるということも、再認識された。
評論は自分だけでたどり着けない所へ連れて行ってくれる。そこが面白い。



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