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2011年8月5日金曜日

森光子『春駒日記―吉原花魁の日々』

自由廃業した元吉原の花魁、森光子の著作。『吉原花魁日記―光明に芽ぐむ日』に続く第2弾がこれだ。
これも文庫化されたということは、前作の反響がなかなかのものだったということなのだろう。当時としてもそうだったらしい。『光明に芽ぐむ日』の刊行が1926年12月。そして、この『春駒日記』が翌1927年10月に出た。その『春駒日記』に、『光明に芽ぐむ日』に先立って、1926年7月に婦人雑誌に掲載された手記、「廓を脱出して白蓮夫人に救わるるまで」を収録したのが、本書である。
『光明に芽ぐむ日』が、リアルタイムで書かれた日記であるのに対し、本書は吉原逃亡後自由な身になってからの回想。前作がぎらぎらとした憎しみに満ちているのに比べ、少し距離感がある。回想録、随想といった趣だ。(さすがに「廓を脱出して…」の方は逃亡直後のものだけに、憎悪剥き出しで迫力満点だなあ。)
中心として描かれるのは、花魁の日常、客との交流。大正末期の吉原を、そこで働く女性の立場から見た、第一級の資料だろう。文楽や志ん生が親しんだ吉原はこういう所だったのだな。しかし、ただ単に資料と見るには、あまりに内容が悲惨だ。いかにあの里の情緒を男が懐かしんだとしても、勤めの身にとって男は、女の肉を貪り食う獣でしかない。(そう考えると、『三枚起請』の喜瀬川の「朝寝がしたいんだよ」という台詞は哀れだ。)
著者、森光子はもともと文学少女だった。文章にもそういう匂いが濃い。そんな彼女が、毎日毎日体を売って暮らすのだ。そりゃあ、地獄のような日々だったろう。
この本では、当時の新聞記事も収められている。見出しを見るだけで、人々に衝撃をもって迎えられた事件だったことが分かる。
解説では、光子のその後について、少しだが明らかにされている。結婚の相手は、外務省の官吏、西村哲太郎。彼女の客だったらしい。西村は光子逃亡に手を貸したために外務省をクビになった。その後、西村は社会運動のつもりで自由廃業の手引きをして、吉原の暴力団に追いかけられていたという。戦後は茨城2区から衆議院議員に立候補して落選した。茨城に縁のある人だったんだな。光子自身の生涯については、詳しくは分かっていないが、このような男の妻として生きたわけだ。弱き者、虐げられた者に対して、彼女もまた無関心ではいられなかったのだと思う。

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